政治・経済
国際
社会
科学
歴史
文化
ライフ
連載
中公新書
新書ラクレ
新書大賞

寺西ジャジューカ 令和4年の佐久間宣行――テレビだけでなくラジオやネットへと越境

寺西ジャジューカ(フリーライター)

マネタイズと尖った番組作り

 なぜ、佐久間は松本が意識する存在になり得たのか? そもそも、彼は高視聴率を獲得するタイプではなく、お笑いコンビ・鬼越(おにごえ)トマホークから「お前の番組、全部視聴率低いな」「業界人のテレビにしか(佐久間の番組は)映んねえ」と言われたほどだ。実は、若い頃から佐久間は視聴率で勝負しないスタンスだった。

「30代で『ゴッドタン』を始めて、ゴールデンの番組をいくつかやったときに、『テレビ東京で視聴率で評価される番組を作っていくのが俺はあんまり得意じゃないし、性格的に向いてないな』と思ったのね。で、『ゴッドタン』みたいな番組をたくさん作りたいと思ったとき、『会社を辞めても大丈夫なような、外で評価されるものを作っていかないとな』と思ったから、社内評価は置いといて、やったことのないこととか、DVDをめちゃくちゃ売るとか、早めにイベントをやるとか、『会社を辞めても大丈夫な人間になろう』というのは30代のテーマとしてあった」(YouTubeチャンネル「日経テレ東大学」22年7月5日)

 視聴率を気にせず、振り切った番組を作る。コアな番組を作れば、「佐久間宣行」の名前は世へ出ることになる。その代わり、DVD化やイベントでマネタイズして会社からの口出しは封じる。「尖った番組作り」「セルフブランディング」「マネタイズ」は、佐久間にとって三位一体だ。

 そんな彼が果たす役割は大きい。振り切った番組を作れば、芸人が芸人らしく本領を発揮できる土壌ができていくからだ。朝の帯番組のMCになったり、ワイドショーのコメンテーターとして器用さを見せる姿が芸人のゴールでいいのか? という本末転倒を打ち崩す存在が佐久間ではないかと思うのだ。

 そして、彼の行動原理には「マネタイズ」がしっかり組み込まれている。佐久間が手掛けるYouTubeチャンネル「佐久間宣行のNOBROCKTV」にはテレビ番組並みの豪華なゲストが出演し、スタッフや機材のクオリティも他のYouTubeチャンネルとは段違いである。ここまで手間とお金をかけているから、やっぱり毎回面白い。並のYouTuberなら採算が気になるところだが、実は「NOBROCKTV」は「ゴッドタン」をスポンサードする株式会社レアゾン・ホールディングスの依頼で始まったチャンネルだ。

 彼がパーソナリティを務めるラジオ番組も同様。基本、深夜3時スタートの「オールナイトニッポン0」にスポンサーが付くことはないが、佐久間はそんな深夜ラジオにさえ数社のスポンサーを連れてきた。持ち出し覚悟で制作される深夜ラジオにスポンサーを連れてくることができるのは、絶対的な強みである。

 佐久間本人も、数字やマネタイズの成果を誉れに感じているのだろう。彼のラジオを聴くと、「チケットが○○○枚売れた」「グッズの売り上げが○○○円に達した」という話が頻繁に出てくる。

1  2  3  4  5