(『中央公論』2023年9月号より抜粋)
- 軽い香り、重い香り
- 無限に広がる味と香りの組み合わせ
- レシピの考え方
- 料理本でもストーリーを意識
軽い香り、重い香り
──カリー子さんのレシピを見て、編集部で実際にスパイスカレーを作ってみました。必須のスパイスはターメリック、クミン、コリアンダーの3種類だけということもあり、タマネギの炒め加減は難しかったですが、とても手軽に感じられました。なぜ、この3種類なのでしょう。
カレーのスパイスは約20種類あります。インドの一般的なカレーで使われているのは、そのうちの10種類ほどです。それらは軽い香り、中間の香り、重い香りと、大きく三つに分けられます。揮発性の違いによって、香りの重さに差が出てくるんです。香水では、最初に出る香りをトップノート、少し時間が経ってから出る香りをミドルノート、最後まで残る香りをラストノートと呼ぶのですが、それに似ています。
その三つの香りから、それぞれ一つを選んでいます。一番揮発しにくく、重い香りなのがターメリック。これは湿った土のようなやさしい香りです。畑をいじっている時の匂いを想像すると、わかりやすいかもしれません。中間の香りであるクミンは、インドを思わせる独特でエスニックな匂いがします。カレーの匂いと聞いてイメージするものに近いでしょう。最後に、一番軽い香りとしてコリアンダー。これはタイ語で言うと「パクチー」ですが、野菜のパクチーとは全然違う香りがします。どちらかと言えば、ミントなど爽やかなハーブのようです。揮発性が高いため、料理中にカレーの鍋から湧き立つ香りの一部を担っています。
それぞれの頭文字をとって、この「タクコ」を揃えると、カレーの香りがするようになります。私は特に初心者の方にスパイスの魅力を伝えたかったので、必要最低限のこの3種類のスパイスに絞りました。
そこにさらにスパイスを加えていくことで、アレンジを楽しむことができます。辛みをつけるために、チリペッパーやブラックペッパーを加えてみよう。粉末にする前の原形であるホールスパイスを使ったら、どんな味になるのだろう。そのように、タクコ以外のスパイスで補完していくのは楽しいですね。その組み合わせには無限の可能性があって、本当にわくわくします。