印度カリー子 スパイスの尽きない魅力
料理本でもストーリーを意識
──今年も猛暑が続いていますが、夏におすすめのカレーは。
夏はやはり旬の野菜を使ったカレーが美味しいでしょう。ナス、インゲン、パプリカ、トウモロコシなどを使ったらよいと思います。暑い時季には生クリームなどのクリーム系の材料はあまり使わないのですが、ココナッツミルクはおすすめです。身体を冷ましてくれて、食欲がすごく湧いてきます。南インドの暑い地方では、ココナッツミルクのカレーがよく食べられているんです。
最近は夏季限定の「鶏肉とオクラのトマトチキンカレー」のスパイスセットを販売していますが、夏のカレーといえば、まさにこれだと思います。夏野菜のオクラは身体を冷やして整えてくれる。梅干しも入れてちょっと甘酸っぱくして、クリーム系のヨーグルトなどは使わないレシピを紹介しています。すごくさっぱりしていて、ご飯との相性もいい。じめじめした蒸し暑い日に適した、夏バテ防止におすすめのメニューです。
──これまでにスパイスを使ったカレー、スープ、お菓子などをテーマに、16冊ものレシピ本を刊行していますが、制作の上で何かこだわりはあるのでしょうか。
本は一つの芸術だと思っているので、あるテーマに沿って最初から最後までストーリーを作ります。一番簡単な例で言うと、読者の方がステップアップしていけるような順序でレシピを並べます。スパイスや食材の入手難度には差があるので、最初のほうのページでは小さいスーパーにも必ず置いてあるような材料、つまりニンジンやタマネギなどを使う料理を選びます。後半になるにつれて、カリフラワーやパプリカなど、少しずつ入手難度の高いものを入れていく。そのように、段階をつけていくんです。
あと面白いのは、レシピ本では同じ人が作るという前提があるため、新しく使った調理器具は、「何ページの料理でも使えますよ」と他のページと関連付けることもできる。また、ウェブ上のレシピでカリフラワー「1/2個」と書いてあると、残りの半分はどうするんだろうと思うことがありますよね。でも、レシピ本だったらそれを回収することができる。つまり、別のページで残りを使えると伝えることで、食材を余らせず使い切ってもらえるわけです。
そうしたレシピの配置の仕方やテーマの一貫性など、すべてにこだわりを詰められるのが、レシピ本の魅力だと思っています。
(続きは『中央公論』2023年9月号で)
構成:篠原諄也
1996年生まれ、宮城県出身。東京大学大学院農学生命科学研究科修了。スパイス初心者のための専門店、香林館株式会社代表取締役。JAPAN MENSA会員。『スパイスカレーの教科書』『ひとりぶんのレンチンスパイスカレー』『ひとりぶんのスパイスお菓子』など著書多数。