「ありふれたもの」から「奇異なもの」へ
死者の声を聞く日常とはいうものの、現代の我々がそれを想像するのはなかなか難しい。当然である。口寄ミコ、ひいては死者の声を聞くという行為自体が、もはや我々にとっては「非日常」以外の何ものでもないのだから。「日常」から「非日常」へ。この一見すると知名度の低下にも思われる現象こそが、他でもない、イタコの知名度を全国区に押し上げた原動力なのである。
近代以降も全国各地に散見され、ありふれた存在だったはずの口寄ミコは、戦前の政府による弾圧と戦後の社会変動を経て、気づけば1960年代の時点で、日本の北と南にかつての名残りをとどめる限りとなっていた。南はユタに代表される南西諸島の、北は東北地方に見られた盲目の巫女の伝統である。
学術の世界でミコへの関心が高まり、積極的に調査がされ始めたのも、ちょうどこの時期だ。そう、彼らはいつしか多くの人にとって物珍しい、奇異なものとなっていたわけである。これにマスメディアが食いついたのは、当然の成り行きだったといえよう。すなわち、口寄ミコがもはや身近な宗教者ではなくなった世にあって、イタコには稀少性に基づく、新たな価値が生じていたことになる。
大道晴香(國學院大學助教)
〔おおみちはるか〕
1985年青森県生まれ。横浜国立大学教育人間科学部卒業、東北大学大学院文学研究科博士課程前期修了、國學院大學大学院文学研究科博士課程後期修了。博士(宗教学)。著書に『「イタコ」の誕生』、共著に『〈怪異〉とナショナリズム』などがある。
1985年青森県生まれ。横浜国立大学教育人間科学部卒業、東北大学大学院文学研究科博士課程前期修了、國學院大學大学院文学研究科博士課程後期修了。博士(宗教学)。著書に『「イタコ」の誕生』、共著に『〈怪異〉とナショナリズム』などがある。