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人民の芸術家蒼井そら老師をフォローせよ

ツイッターが変える中国
古畑康雄

大量破壊兵器現る

「我使用的是翻訳。謝謝。在中国我的球迷。I use a translator in chinese.Thank you for my fans in China.」

 今年四月十二日〇時二分、女優の蒼井そらさんがツイッターに書き込んだつぶやきだ。彼女のツイッターは十一日、フォロワーが急増していた。

「返信見てたら中国語いっぱい!荒らされてるわけじゃないと思うけど読めない。あと韓国語も簡単なのしか分からない」(四月十一日五時四十一分)

「中国圏で私のツイッターIDが流れたみたいで、一気にフォロワーが三〇〇〇人を超した!今も増え続けてる。この、ツイッター日本人より、外国人の方が多いのでは」(十一日二十一時四十八分)

 きっかけは、中国のファンが彼女のアカウントを見つけたことだった。「蒼井そらさんのツイッターIDは、@aoi-solaです。興味がある人はフォローして」。このような書き込みが次々とフォロワーを増やした。

 蒼井さんがツイッターを開設したのは三月三十日。中国で彼女は、以前出演したアダルトビデオ(AV)の海賊版やネット動画が流通、「蒼井空」として知られる。彼女に限らず、日本のAV女優の知名度は高く、興味深いことに彼女らは「老師(先生)」の敬称で呼ばれるのだ。性に関する情報が不足している中国で、?若者たちの性の啓蒙者″という意味が込められているのだろう。

 筆者もこの日、ツイッターを見ていた。すると「蒼井空」の名前が、しばしば出てくるようになった。正直、それまでこの女優のことは知らなかった。彼女のページを見た時点ですでにフォロワーが三〇〇〇人を超えていた。中国紙鱠南方都市報鱧四月二十八日付報道によれば当時、フォロワーは一分間に三七人のペースで増えていったという。

 そこで筆者も「日本のAV女優のツイッター開設に中国語圏から三〇〇〇人ものフォロワーが!」(十一日二十二時三十分)と書き込んだところ、知人の中国人ジャーナリスト、安替(@mranti)が「共同社記者同学開始関注了(共同通信の記者が関心を持った)」とリツイート、筆者のフォロワーも急増した。

 とはいえ、当初は冗談めいた興味本位の書き込みも多かった。中国福建省の「mywindson」氏は「西側の反中国勢力は我が国の青年にネット規制を乗り越えさせ、社会主義を敵視させるため、日本と結託して大量破壊兵器、蒼井そらを発動した。本当に邪悪だ!」
と書き込んでいる。蒼井さん以外のAV女優のツイッターアカウントも流され、アクセスが同じく急増、そのうちの一人で元AV女優の紅音ほたるさんも「何故か中国の人たちにめっちゃつぶやかれてる...なんでや??誰かおしえてーやー」と関西弁でつぶやいた。

 だが、蒼井さんに自分たちの気持ちを伝えたいという書き込みも増えてきた。三万二〇〇〇人のフォロワーがいる和菜頭(@hecaitou)氏は次のように呼びかけた。

「みんなで次のメッセージを蒼井そら老師に送ろう...鱠『蒼井さんの映画がみんなの中に素晴らしい思い出を残した。ありがとう』」

「人民の芸術家」

 こうした中、「中国では海賊版しか手に入らないが、本当は正規版を買ってちゃんとお金を支払いたい」と一人が蒼井さんに訴えた。これに対し彼女はブログで日本語と中国語で次のようにコメントした(以下は中国語を翻訳)。

「正規版を買いたいという皆さんの気持ちは分かりますし、とてもうれしいです。海賊版については私も非常に心を痛めていますが、さまざまな原因で正規版を買うことができない事実を受け入れるしかありません。

 もし、何か行動を起こすときはきちんと正式に発表したいと思います。早まってどこか知らない口座にお金を振り込んだりしないようにしてください。善意を利用した悪い人もたくさんいますから。

 中国国内から海外の物を買うには困難があるでしょうが、私は国と国の交流はますます増え、いつかはこうした問題が解決すると思います。そのときに、私はまだ年をとっていないことを願いますが(笑)、多くのファンがそばにいてくれることを願っています」

 このコメントは中国のネットユーザーをいたく感激させた。「蒼井そらさん、あなたは人民のための偉大な芸術家です!」というあるブログの一文は、「このブログを呼んで、私は思わず心の底から尊敬の念がわき起こり、人民のための偉大な芸術家とはいかなるものかを初めて悟った。人民のための芸術家は蒼井さんのように、損得勘定を考えず、中国人民に娯楽を与えることを自らの仕事と考えなければならない!」そして次のように結んでいる。

「蒼井さん、私は一生あなたのファンです。たとえ天朝(共産党政権のこと)が永遠に天朝であっても、たとえあなたが若くなくなっても、私はあなたのファンであり続けます!」

(続きは本誌でお読み下さい)

〔『中央公論』2010年9月号より〕