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野嶋 剛 台湾人は中国に徹底抗戦するのか

野嶋 剛(ジャーナリスト・大東文化大学教授)

ウクライナ侵攻による動揺

 その「共感の共同体」たる台湾の人々の感情を強く揺さぶったのが、今年2月に起きたロシアのウクライナ侵攻である。

 議論の口火を切ったのは、意外にも、米政治学者のフランシス・フクヤマだった。

『歴史の終わり』でかつて自由主義勢力の勝利を宣言したフクヤマは、ロシアの侵攻直後の2月26日、台湾の大学のオンライン講演に招かれていた。フクヤマは近年すでに自説を修正し、ロシアや中国などの洗練された権威主義体制が民主主義の脅威となる可能性に懸念を示している。


「ロシアのウクライナ侵略はリベラルな国際秩序に対する外部からの脅威であり、全世界の民主政治体制は一致団結して対抗しなければならない。なぜならこれは(民主体制)全体に対する攻撃だからだ」

 このように述べたフクヤマは、台湾に対する中国の武力行使は、近年の国際環境の変化とウクライナ情勢によって「想像できない事態から想像しうる事態になった」とし、台湾は自ら戦う決意が弱く、「もしも自らのために戦わなければ、台湾は米国が救いに来ると期待することはできない」と述べた。

 自由主義陣営の一員としての台湾に対する叱咤激励であり、警告でもあった。確かに、台湾社会は従来、世界中が心配するほどには、中国による台湾への武力行使をそこまで不安視しない傾向があった。

 主要経済誌『天下雑誌』が今年1月に行った世論調査でも、近い将来、台湾と中国との間に戦争が起きないと考える人の割合は63・7%に達した。また、57・9%の人々が「中国は台湾を武力統一できない」と見ている。

 1949年以来、70年以上にわたって中国と緊張関係にある台湾で「現状維持バイアス」が働くことは避けがたい。日本のメディアでは、中国軍機が台湾の防空識別圏に侵入したニュースが日々報じられ、緊迫する台湾海峡情勢が不安を招いている。しかし台湾では、こうした中国軍のアクションは、まるで日本における昨今の北朝鮮のミサイル実験のように、ある種の日常茶飯事として受け止められ、人々の話題にのぼることすら少なかった。

 一方、台湾では各種世論調査で6~8割の人々が、万が一戦争になれば武器をとって戦うという徹底抗戦に積極的な意識も示されている。実際に台湾人の自己防衛の決意がどこまで強いか、「その日」が来るまで本当のことは分からないだろう。

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