廃業寸前サウナが「西の聖地」に......名店「湯らっくす」から見た熊本地震後の8年

西生吉孝(「湯らっくす」社長)
西生吉孝氏
 サウナ界で「西の聖地」と呼ばれる熊本市中央区の「湯らっくす」。首都圏から「サ旅」で訪れる客も多い有名店だが、つい数年前までは廃業を検討するほどの状況だったという。転機は2016年の熊本地震。同店を経営する西生吉孝氏に、地震後8年の変化を聞いた。
(『中央公論』2024年10月号より抜粋)

 全国のサウナー(サウナ愛好家)が集う熊本市中央区の温泉施設「湯らっくす」を経営する私ですが、実はもともと、サウナが好きではありませんでした。

 創業者である父親が大のサウナ好きで、私も小学生の頃から市中心部の繁華街にあった「ライオンサウナ」によく連れていかれました。しかしサウナといえばおじさんの憩いの場。室内は熱いし水風呂は冷たいし、子どもが楽しめるところではありません。常連客だった父の頼みということで、特別に入れてもらっていた感じです。実は母親が父の浮気を疑っていて、「サウナに行くなら息子を連れていけ」と、私を見張り役にしていたのです。そんなこともあって、サウナは大嫌いでした。

 20代後半から10年ほど、家業の「湯らっくす」を手伝っていたのですが、父が力を入れていただけあって、サウナの評判は高かった。自分も勉強しないわけにはいかないなと、2年に1度開かれるサウナの国際見本市への視察を兼ねて、ヨーロッパのサウナを回るようになりました。各地のサウナに触れるうち、「ああ、サウナっておもしろいんだ」と思えてきた。20年ほど前のことです。

 その後、父と意見が合わず、「湯らっくす」から離れ、福岡でヨガスタジオを経営していたのですが、10年ほどして転機が訪れます。父が亡くなり、跡を継いだ姉もその1年後に亡くなってしまったのです。施設は畳むのかと思いきや、母は続けたいと言います。さすがに80代の母に任せるのは酷だということで、少し手伝うだけのつもりで帰ってきたのが、2015年末のことでした。

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