(『中央公論』2022年6月号より抜粋)
- 「悪魔が入ってこなくなった」
- 趣味は探すものではない
- 家事の達成感
- きっかけは、がん
「悪魔が入ってこなくなった」
――新著『100歳まで生きてどうするんですか?』のあとがきに、「100歳までも生きるなんて欲張りすぎると思っていたのに、いつの間にか自分も100歳まで生きてみたいと思うようになっていました」とあります。そのような心境の変化が起きたのは、どういうことなのですか。
以前は自分が老人になるのがすごく嫌だったんですよ。かっこいい老人もいますけど、だいたいはどこか暗い感じがしたり、見苦しいところがあったりするじゃないですか。
それが70歳を過ぎたあたりから少しずつ、ああ、自分も老人だなと感じることが増えてきた。走ろうと思っても足が萎えて上がらないことなど、身体の変化が大きいですね。
ところが、医学的にはその身体を大事にしていけば、けっこう生きられる時代になっているという。健康で100歳まで生きる、それなら生きてやってもいいかなって、そんな気になってきたんです。
――年を重ねることをプラスに捉えるようになったのですね。
振り返ってみると、一番の転機は、64歳のときに会社を辞めてストレスフリーになったという経験を得たことです。
僕は雑誌を作っては廃刊、作っては廃刊を繰り返してきた編集者だったので、そのたびに付き合う人が全部入れ替わって、リフレッシュできていたんですね。ところが、勤めの最後の10年間ぐらいは、現場から離れた取締役として、机の上でハンコを押すことが仕事みたいになっちゃっていた。これがものすごく苦痛だったんです。
月に8回くらいあった会議でも、本を出しても売れない時代なのに、そんなことじゃダメだなどと、心にもないことを言ってみたり、その一方で社員のリストラを進めたり。いろんなことが重なって、自分の中でかなりのストレスになっていた。
会社を辞めてからはっきり変わったのは、夫婦喧嘩をしなくなったことですね。以前は会社でためた嫌な気持ちを帰宅後も引きずっていて、家の中でむつっとしていたんだと思います。辞めてから、うちの奥さんは「悪魔が入ってこなくなった」と言うんですよ(笑)。だから楽しくなりましたね、家庭での暮らしが。