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末井昭 がんがきっかけで健康志向に

末井昭(エッセイスト、フリー編集者)/聞き手:オバタカズユキ(コラムニスト)
末井昭氏(右)/聞き手:オバタカズユキ氏(左)
 7歳のときに母親をダイナマイト心中で亡くす衝撃の体験をした末井昭さん。身近にあった死についてや、70代半ばに差し掛かった現在の生き方などを伺った。
(『中央公論』2022年6月号より抜粋)

「悪魔が入ってこなくなった」

――新著『100歳まで生きてどうするんですか?』のあとがきに、「100歳までも生きるなんて欲張りすぎると思っていたのに、いつの間にか自分も100歳まで生きてみたいと思うようになっていました」とあります。そのような心境の変化が起きたのは、どういうことなのですか。

 以前は自分が老人になるのがすごく嫌だったんですよ。かっこいい老人もいますけど、だいたいはどこか暗い感じがしたり、見苦しいところがあったりするじゃないですか。

 それが70歳を過ぎたあたりから少しずつ、ああ、自分も老人だなと感じることが増えてきた。走ろうと思っても足が萎えて上がらないことなど、身体の変化が大きいですね。

 ところが、医学的にはその身体を大事にしていけば、けっこう生きられる時代になっているという。健康で100歳まで生きる、それなら生きてやってもいいかなって、そんな気になってきたんです。

――年を重ねることをプラスに捉えるようになったのですね。

 振り返ってみると、一番の転機は、64歳のときに会社を辞めてストレスフリーになったという経験を得たことです。

 僕は雑誌を作っては廃刊、作っては廃刊を繰り返してきた編集者だったので、そのたびに付き合う人が全部入れ替わって、リフレッシュできていたんですね。ところが、勤めの最後の10年間ぐらいは、現場から離れた取締役として、机の上でハンコを押すことが仕事みたいになっちゃっていた。これがものすごく苦痛だったんです。

 月に8回くらいあった会議でも、本を出しても売れない時代なのに、そんなことじゃダメだなどと、心にもないことを言ってみたり、その一方で社員のリストラを進めたり。いろんなことが重なって、自分の中でかなりのストレスになっていた。

 会社を辞めてからはっきり変わったのは、夫婦喧嘩をしなくなったことですね。以前は会社でためた嫌な気持ちを帰宅後も引きずっていて、家の中でむつっとしていたんだと思います。辞めてから、うちの奥さんは「悪魔が入ってこなくなった」と言うんですよ(笑)。だから楽しくなりましたね、家庭での暮らしが。

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