末井昭 がんがきっかけで健康志向に

末井昭(エッセイスト、フリー編集者)/聞き手:オバタカズユキ(コラムニスト)

趣味は探すものではない

――昔から「亭主元気で留守がいい」だなんて言いますが、定年退職して毎日亭主が家にいるようになり、それが奥さんにとっては負担で、挙句の果てに熟年離婚してしまったりしますよね。末井さんご夫婦のようにいかないのはどうしてでしょう?

 奥さんを愛していないからじゃないですか。愛し合っていない夫婦って多いと思いますけどね。

 出版社に勤めていた頃、印刷会社の担当者が定年退職になって、それから半年ぐらいしたらうちの会社に遊びに来ている。「あれ、どうしたの?」と尋ねたら、「いやね、行くところがなくなっちゃってね」と言っていて。最初の3ヵ月くらいは、印刷会社のいろいろな部署に顔を出していたらしいんですけど、一回りしてしまい、今度は取引先のうちの会社に足を運ぶようになった。

 その方も、家にいづらかったのでしょうね。

――自分の居場所を失うことの不安は、多くの会社員や元会社員がお持ちだと思います。

 そうですよね。やっぱり会社の中で成り立っている人間関係が大きいものだったりするんでしょう。

 ただ僕は、そういうような友達は一人もいなかったですね。仕事上の必要がなければ、会社の人と飲みに行くこともほとんどなかった。自分が飲みに行きたいと思う人とは行く、行きたいと思わない人とは行かない、という感じでやっていたら、結果的に社外の人ばかりと飲んだり遊んだりすることになっていましたね。

 だから会社を退職して人間関係がなくなって、ということは別にない。もともと友達は少ないですけどね。所属しているバンドのメンバーとか、その程度で。

――末井さんは30代からずっとサックスを吹いておられるんですよね。よく定年前に趣味を探しておこう、と言われますが、それについてはどう思われますか。

 趣味を探そうって、それおかしいですよ。この趣味がいいですか、こちらの趣味はどうですか、と紹介所に勧められて選ぶとか、そういうものじゃないと思うんですよね。自分の内面からやりたいという気持ちが出てこなければ、何を始めたって続かないですよ。

 楽器だって一応、楽しく演奏できるようになるまでは練習をしないといけない。基礎練習ですね。それは楽しくないです。その段階で挫折する人も多いと思うし。別に趣味なんかまったく持たなくても楽しい人だっているだろうし。

 僕はサックスを吹いていますけど、最初は見掛けがかっこいいなと思ったんですよね。友達と3人で楽器店に行ったら、サックスがキンキラ輝いていた。いろんな金属の棒がついていて、見た感じが工場の配管みたいじゃないですか。ちょっと吹いてみたら音が出るので、これ買おうかと。

 きっかけはその程度のものだったのですけれど、30年も続いているのは、僕にとってサックスを吹くことが、自分の中の言葉にならないモヤモヤを吐き出す手段だったからじゃないかと。だから出鱈目に吹いてもいいフリージャズが好きです。練習しないからいまだに下手ですけど、今もバンドを続けています。サックスに出会えて良かったと思います。

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