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三浦哲哉×山口祐加「自由で奥深き自炊の世界へようこそ」

三浦哲哉(青山学院大学教授)×山口祐加(自炊料理家)

コスパとこだわりの狭間で

三浦 今の話に絡めると、「一人暮らしの自炊はコスパ(コストパフォーマンス)が悪い」とよく言われますよね。あるいは自炊を語るとき、コスパやタイパ(タイムパフォーマンス)の良し悪しがついて回る風潮が年々強まっている気がするんです。

 僕は自炊には、「手段としての自炊」と「目的としての自炊」の2種類があると思っていて。前者はたとえば栄養摂取や節約のためで、それであればコスパやタイパを重視する考え方は有効ですよね。そんな中で料理研究家リュウジさんの「バズレシピ」も需要があるし、それに救われた方もたくさんいらっしゃるでしょう。

 それに対して目的としての自炊とは、要するに自分を喜ばせるための自炊です。であれば、料理する時間はむしろ長ければ長いほどよくて、1924年生まれの料理研究家である辰巳芳子さんの本では汁物作りに要する時間が「6時間」と書かれていたりしますが、それは6時間かけて幸福を味わうということなんですよね。僕も時短の日と、楽しむために目的としての料理をする日があります。うまいバランスで使い分けすればいいと思うんですけどね。


山口 どちらもあっていいし、その中間も欲しいですよね。今、書店の料理本コーナーを見ると、コスパ・タイパを極めるか、いわゆる「丁寧な暮らし」のこだわりを極めるか、その両極に分かれている印象が強い。対極にある本が同じ棚に並んでいて、「いや、もうちょっと間をとった、ちょうどいい本ないの?」と私は常々思っていて。でも最近では、スープ作家の有賀薫さんや、20代でX(旧Twitter)を中心に活躍している長谷川あかりさんは、痒いところに手が届くちょうどいい提案をなさっていて、そういう料理家さんが増えている印象があります。


(続きは『中央公論』2024年5号で)


構成:須藤 輝 撮影:米田育広

中央公論 2024年5月号
電子版
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三浦哲哉(青山学院大学教授)×山口祐加(自炊料理家)
◆三浦哲哉〔みうらてつや〕
1976年福島県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は映画批評・研究、表象文化論。『映画とは何か』『サスペンス映画史』『食べたくなる本』『LAフード・ダイアリー』など著書多数。

◆山口祐加〔やまぐちゆか〕
1992年東京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。出版社勤務などを経て、現在は料理教室やレシピ製作、書籍執筆などを行う。著書に『週3レシピ』『ちょっとのコツでけっこう幸せになる自炊生活』『子ども自炊レッスン』『軽めし』など。
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