※本稿は、『ゲンロン13』(編集長:東浩紀)の一部を抜粋・再編集したものです
- 視線が合わないオンラインミーティング
- 「ぼくに向けられた」演説
- 興味を引かれた2つのポイント
- ゼレンスキー大統領のカメラ目線
視線が合わないオンラインミーティング
新型コロナウイルスの世界的流行以降、会議や飲み会がもっぱらオンラインで行われるようになって、画面越しの相手と視線が合わないという問題が発生している。この状態にはもう慣れた、という人もいるかもしれないが、ぼくはいまだに違和感が拭えない。
画面に映った相手の顔を見ると、相手から見たときの自分の視線はあらぬ方向を向く。視線を合わせるためにカメラを見つめると、画面に表示されている相手の顔は見えない。カメラとディスプレイが違う場所にある以上、どうしようもない。自撮りで同じ経験をした人も多いだろう。
オンラインミーティングで視線が合わない問題は今に始まったものではなく、テレビ会議というものが生まれてからずっとあった。ただ、コロナ禍がもたらした急激な生活様式の変化によって、今や以前とは比べものにならないほど多くの人びとがこの違和感を覚えるようになった。
カメラとディスプレイが高品質化し、回線速度と映像圧縮アルゴリズムが優秀になって、お互いの目が高解像度で映し出されるようになったことも大きいだろう。つまり、視線の方向が鮮明に映されるようになったのだ。
技術的な解決策はある。今後、ディスプレイがカメラとしても機能するデバイスが登場するはずだ。実際、アップル社は2021年にディスプレイ下埋め込み型カメラの特許を取得している。ただ、多くの人はカメラがどこにあるのか分からない状態を嫌うと思われるので、そのようなディスプレイが実用化されても、広く普及するにはいたらないかもしれない。今ですらノートパソコンのカメラ部分にシールを貼っている人をよく見かける。
カメラの位置は現在のまま、リアルタイムで目を修整加工して、目線が合っているかのように見せるソフトウェアが普及するほうが早いだろう。iOS14では、ビデオチャットアプリFaceTimeに「アイコンタクト」の名前でそのような機能が盛り込まれた。
『新写真論』が出版されたのは2020年3月で、執筆時にはまだ今ほどオンラインミーティングが行われていなかった。だから、この問題を取り上げようとは思わなかった。副題に「スマホと顔」を掲げていただけに残念だ。今『新写真論』の続きを書くとしたら、まず取り上げなければならないのは「目が合うとはどういうことか」になる。本稿ではそれについて論じる。手がかりとして、2022年3月23日に行われた、ウクライナのゼレンスキー大統領による、日本の国会でのオンライン演説から始めよう。