過去から未来を見る
――「次のフェーズ」では、具体的には何が必要になるとお考えでしょうか。
一つは「能登を忘れられないようにする」こと、もう一つは「未来のビジョンを作る」ことです。今私が行っていることは、すべてこの二つの目標に繋がっています。
「人の噂も七十五日」といいますが、3月15日で地震発生から75日です。どの被災地でも起こってきたことですが、時間が経てば経つほど人々の関心が薄くなり、支援もなくなればボランティアも減っていきます。だから能登に関心を持ってもらい、忘れずにいてもらうためのプロジェクトを進めています。
――生粋の能登人や、能登に縁のあるゲストを招いてのインスタグラムでのライブトーク「そうだ、能登の話をしよう。」や、フェイスブックで募集し金沢市内で展覧会も開催なさった「能登のステキ写真」には、そのような狙いがあったのですね。
そうです。インスタライブは第1回が女優の木村文乃(ふみの)さん、第2回が歌手の一青窈(ひととよう)さんなど、非常に豪華なゲストの方々にご出演いただいていますが、能登の方に出ていただくときは「どんなことでも話していい」ことをお約束して、ありのままを語っていただくことを大事にしています。そもそもインスタライブを考えたのは、発災から3週間ほどが経って、被災地報道にある種のバイアスを感じたからでした。マスコミが求める「笑顔で困難に立ち向かう前向きな被災者」のイメージに、被災した側の人が無理に合わせようとしてしまうことに、危惧を覚えたんです。不満でも愚痴でも、何でも吐き出してもらえる場を作ることが必要だと思いました。
トークであれ写真であれ、震災以前の能登の魅力を語ることは、復興の道標にもなります。震災を契機に能登を離れる人もいるでしょうし、激しい地盤の隆起だけでなく、すべてを震災前に戻すことは不可能です。だけど、とくに高齢住民の多くは元通りの能登が戻ってくることを願っていますし、心理的ショックの大きさから「戻る」と信じるほかない状態の方も少なくないはずです。どうしても取り戻さないといけないものは何かを知るために、あえて震災前の能登を語り、記録しておく必要もあるのではないかと考えています。
――「忘れられないようにする」ことは地域外からの支援のためだけでなく、能登の「未来」のためにも必要だということですね。
まさにその通りです。過去を考えることは、未来を考えることなんです。