ビジョンを実装するために
――「未来のビジョンを作る」ために、どのような活動をされているのでしょうか。
500人の語り部に能登の未来を語ってもらう、「能登乃國百年之計」というプロジェクトを立ち上げています。最終的には5000の復興ビジョンを集めて、30人のリーダーがイニシアティブを取って復興を進めていくことを目指しています。
――輪島市、珠洲市、穴水町、能登町の2市2町からなる奥能登の人口は約5万5000人ですが、なぜ5000ものビジョンが必要なのでしょうか?
たとえば能登町の人口は約1万5000人ですが、192もの集落があります。都会育ちの人にはイメージしにくいと思いますが、この地域にとって集落は拡大家族のようなもので、集落を単位として日々の生活や営農、祭りなどの行事が行われています。
2市2町全体での集落数が2000だとすると、それだけで2000個のビジョンが必要になるわけですが、多くの集落では職業や役割による分業が行われているため、一つの集落に複数のビジョンが求められます。だから少なくとも5000のビジョンを集めたうえで、その最小公倍数となる復興プランを作らないといけないと思っているんです。
――集落ごとに抱えている事情も、取り戻すべき過去も異なる、と。
そうです。2市2町の議会の議員定数が51で、過半数が26。これに4人の首長を足すと30で、30人のイニシアティブというのはそのような意味です。
民間ベースでどれだけ立派なビジョンを作っても、行政に実装できなければ意味がありません。現在の市長と町長はしっかりと行政を進めておられる方々ですが、仮にそうでない人に交代してしまったら、実装したはずのビジョンも頓挫しかねない。ビジョンを共有できる人たちに議会の過半数を取ってもらうために、30人のイニシアティブを作るという目標を打ち立てています。
――「能登半島地震避難者受入基金」では、被災地出身の大学生等への給付型奨学金も実施されるそうですが、奨学金で学ぶ学生たちもまた、イニシアティブの担い手となることを期待されているのでしょうか。
もちろん。言ってみれば復興人材育成のための囲い込みです。被災地出身であることのほかに、卒業後に復興に携わると誓約してもらうことや、月1回の復興会議への出席を支給条件にしているのも、復興人材であることを意識付けし、囲い込みたいからです。同情や人助けの精神でやっているわけではありません。
奨学金を受けた若者全員を議会に送り込めると考えるほど私も能天気ではありませんが、幸いにして奥能登の若者の多くは地元愛が強いので、復興のさまざまな局面で自分なりの力を発揮してくれればいいと思っています。