気候変動が生む「最大のリスク」
気候変動といえば、気温上昇や集中豪雨による災害などが思い浮かぶ。しかしながら、温暖化に端を発する地球の変化はさまざまだ。海水準(陸地に対する海水面の高さ)が上がって低標高の陸地が水没する、いわゆる「海水準上昇」の問題もそのひとつである。
島国や低標高の国々ではすでに深刻な影響が現れはじめており、日本も例外ではない。いま現実にどのくらい海水準が上がっているのか、またこの先はどう予測されているのだろうか。
気候変動に関して信頼できる情報を知りたければ、「国連の気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の報告書にあたることをお勧めする。IPCCとは、国連が各国政府に呼びかけて構成する国際機関で、専門分野を代表する各国の研究者が集まって組織される。気温が何度上昇しているか、それがどんな環境変化と自然災害をもたらすか、変化を抑える術があるのか。各国の施策のよりどころにもなる情報を、ほぼ5~6年ごとに出版する評価報告書によって伝えている。
2021年8月には、最新の第6次評価報告書の公開が始まった。
その冒頭では、「人間活動の影響で、大気、海洋、陸地が温暖化したことに疑う余地はない」と明言されており、地球環境への深刻な影響が列挙されている。海水準上昇もそのひとつである。報告書によれば、20世紀の100年間で海水準は16センチメートル上がっている。そして「21世紀中に海水準が上がりつづけることはほぼ確実」とした上で、「2100年までに2メートル、2150年までに5メートルに迫る可能性も完全には否定できない」としている。
16センチメートルですら影響が出ているというのに、数メートル上昇したらどうなるのだろう。そもそも、そこまで大きな変化が起こる「可能性」とはいったい何によってもたらされるのか――? そのカギは、私が研究対象とする南極氷床の「崩壊」にある。以下で説明していこう。