杉山 慎 南極の氷が融けると世界はどうなるのか?【上】
――気候変動による氷床融解のリスク
杉山 慎(北海道大学教授)
「地球最大の氷」南極氷床
そもそも「氷床」とは何だろうか。その説明の前に、まずは「氷河」という言葉を思い出してほしい。
氷河と聞けば、山々を縫って氷が流れる雄大な景色や、海に氷が崩れ落ちる映像が思い浮かぶかもしれない。氷河を学問的に定義すると、「陸上に雪がたまって氷となり、それがゆっくりと流れ出したもの」となる。南極大陸の98パーセントが、そのような氷に覆われている。
ただし、南極大陸は氷河としての規模が段違いに大きいので、特別に「氷床」と呼ばれる。
南極氷床の面積は日本の国土の約37倍、氷の厚さは平均1940メートル。氷の「河」というよりは、氷の「床」という名前がぴったりな、「地球でもっとも大きな氷」である。もうひとつ、「氷床」と呼ばれる氷がグリーンランドにもあるが、南極氷床の面積はグリーンランド氷床と比較しても8倍以上で、文句なしのナンバーワンだ。
日本の40倍近い土地を覆う、山脈のように分厚い氷を想像してみてほしい。体積に換算すると約2700万立方キロメートル。琵琶湖の貯水量で100万杯分、日本海が湛える海水20杯分である。これは、地球に存在する氷河の90パーセントに相当する。残りのほとんどはグリーンランド氷床が占めており、山岳氷河と呼ばれるその他の氷河は全て足しても1パーセントに満たない。