TESCREALの信奉者たち
マスクらのこうした「思想」を表現するものとして、2023年、評論家のエミール・トレスと元GoogleのAI研究者ティムニット・ゲブルは、「TESCREAL」という奇妙な造語を提示した。これは、表に示したような英単語の頭文字をつなげたものである。
これらのいくつかは、最近では日本でも比較的馴染みがある概念かもしれない。例えばトランスヒューマニズムは近年よく聞かれる言葉だが、これは、技術によって人間を進化させるべきであるという思想であり、バイオテクノロジーによって人間をミートスーツ、つまりは生身の肉体の限界から解き放つことを目指す。逆にエクストロピアニズムはあまり知名度がないかもしれないが、科学技術によって人類の寿命を延ばし不老不死を実現することで、それを前提とした新たな倫理や社会像を打ち出すことを目指す思想である。一方シンギュラリタリアニズムは、AIを始めとした技術進歩を加速してシンギュラリティ(技術的特異点)に達し、人類を遥かに超える超知能を生み出し、この社会を大きく変革することを目指す思想である。
スペースXのロケットや衛星通信網スターリンクで知られるように、イーロン・マスクの宇宙へのこだわりは有名だが、宇宙主義は単に宇宙を開発しましょうというのとは若干ニュアンスの異なる概念だ。宇宙主義のルーツは実はロシアにあり、19世紀末から20世紀初頭にかけてニコライ・フョードロフ、コンスタンチン・ツィオルコフスキー、ウラジーミル・ヴェルナツキーといったロシアの科学者や哲学者らが提唱した。
(続きは『中央公論』2023年10月号で)
八田真行(駿河台大学准教授)
〔はったまさゆき〕
1979年東京都生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は経営組織論、経営情報論。共著に『ソフトウェアの匠』『日本人が知らないウィキリークス』がある。
1979年東京都生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は経営組織論、経営情報論。共著に『ソフトウェアの匠』『日本人が知らないウィキリークス』がある。