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「富岳」の正体④ 逆転の発想から生まれた注目AI企業の自主開発スパコン

土井裕介×聞き手:小林雅一

GAFAをどう見ているか

─ビジネス面に話を転じたいと思います。御社がこの先、GAFAのような企業をめざすとすれば、強大な力を持った巨大IT企業に日本の新興企業が立ち向かっていけるのだろうか、とも正直思います。

 日本を代表するIT企業として、一九八〇年代のエレクトロニクス産業のように世界市場で日本企業の存在感を高めていくためには、何か勝算というか戦略のようなお考えはお持ちでしょうか。

 会社全体の戦略についてお答えする立場にないので、このご質問に直接お答えすることはできませんが、西川(CEOの西川徹氏)は自著で「大手企業がやっているようなことをやっても勝てるわけがないので、どうやって大手のやっていない穴を探していくか。みんなが『できるわけない』と思っているようなところを見つけて、そこで勝っていくのがすごく重要だ」といったことを申しておりますね。

 下は計算機の部分から上はお客様に届けるソリューションまで、全部やれている技術系企業はほとんど見当たりません。PFNはまさにそこに踏み込んでいるわけで、そのビジネス的な価値は世界的に見ても非常に大きなものになると思っています。さまざまな業界の裏方に入って機械を知能化し、世の中の底上げをしていくことでPFNの価値を高めていきます。

─結局、御社にとってGAFAはどういう存在なのですか。

 現時点では土俵が違うので、直接の競合にはなっていないと考えています。もちろん今後、PFNが別の分野に出ていくときには競合相手にもなりえますが、我々が持っている技術ポートフォリオはGAFAのそれとは違いますので、同じマーケットを狙いにいく確率はそれほど大きくないでしょう。

 一方で、社内のエンジニアやリサーチャーには、GAFAのスター研究者らへの憧れや尊敬がありますし、もちろん国際学会やOSS(オープン・ソース・ソフトウェア)開発を通じての交流もあります。技術あるいは計算基盤等、いろいろな意味でライバル心もありますけどね。

 


 このインタビュー記事は簡略版です。完全版は小林雅一著『「スパコン富岳」後の日本』(中公新書ラクレ)でご覧いただけます。

〔『中央公論』2021年1月号より抜粋〕

「スパコン富岳」後の日本

小林雅一

 世界一に輝いた国産スーパーコンピュータ「富岳」。新型コロナ対応で注目の的だが、真の実力は如何に? 「電子立国・日本」は復活するのか? 新技術はどんな未来社会をもたらすのか? 莫大な国費投入に見合う成果を出せるのか? 開発責任者や、最前線の研究者(創薬、がんゲノム医療、宇宙など)、注目AI企業などに取材を重ね、米中ハイテク覇権競争下における日本の戦略や、スパコンをしのぐ量子コンピュータ開発のゆくえを展望する。

土井裕介×聞き手:小林雅一
◆土井裕介〔どいゆうすけ〕
Preferred Networks 執行役員 計算基盤担当VP。

【聞き手】
◆小林雅一〔こばやしまさかず〕
KDDI総合研究所 リサーチフェロー。
1963年群馬県生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。同大学院理学系研究科を修了後、東芝、日経BPなどを経てボストン大学に留学、マスコミ論を専攻。慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所などを経て現職。『AIの衝撃』『AIが人間を殺す日』など著書多数。
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