まずは賞の全容を探る ~中央公論新社の新書大賞とは?~
「新書大賞」という字面からはそのまま、新書を対象にした賞であることはわかりますが、そもそも「新書」とは本の判型を指す言葉。新書でさえあれば内容はまったく問わないぜ、と言わんばかりの無骨なネーミングです。
本に纏わる賞のイメージでいえば、学術書では「○○の分野において発展に寄与した」などといったコンセプトがきっちりと決まっていたり、文学であれば「時代小説賞」「ミステリ小説賞」「新人賞」など、内容やキャリアである程度細分化されたりしている賞は多くあります。そんな中で、「新書」という大きくジャンルレスなくくりの中から受賞作を選ぶ、という試みには、何か意図がありそうな予感がしますね。どのような賞で、どのような新書が選ばれるのでしょうか。
中央公論新社が主催する「新書大賞」は、1年間に刊行されたすべての新書から、その年「最高の一冊」を選ぶ賞です。(中略)今回の「新書大賞2023」では、2021年12月~2022年11月に刊行された1200点以上の新書を対象に、有識者、書店員、各社新書編集部、新聞記者など新書に造詣の深い方々106人に投票していただいた(後略)。
「書店売上ランキング第1位」でも「弊社が選んだ今年の1冊」でもなく、「その年最高の1冊」を選ぶ、というところにミソがありそうです。先ほどネーミングが無骨だと述べましたが、「ジャンルも著者も縛りなし、とにかく最高の新書を選んでみた」という心意気がここにも表れています。実際、受賞作は文系理系問わず、生物や宇宙、歴史、宗教、思想哲学など、多岐に渡る分野から選ばれています。
また、対象となる本が幅広いことと同じように、投票する人も幅広いのが特徴です。たとえば芥川賞・直木賞では、現代文学の大作家(文学の専門家と言ってよいでしょう)が審査員を務めているいっぽう、小社刊行の『52ヘルツのクジラたち』も過去に受賞した本屋大賞は、書店員の投票のみによって決まります。芥川・直木賞が専門家の深い見解によって決まる賞だとすれば、本屋大賞にはその特性はないものの、より読者に近い目線で選ばれる賞だと言えそうです。
それらに対して新書大賞は、読者や売り場目線と専門家目線、両方の投票があります。このことを考えると、どちらからの支持も得た新書、つまりそれこそが「最高の一冊」である、という解釈にたどり着きました。