【最終回】フェアと本売りの未来を探る! ~中公新書60周年・中公文庫50周年フェアから「俺」フェアまで~
私のフェア作り体験記③~「俺」フェア~
こうして立て続けにフェアの仕事をしていると、自分でも企画したくなるのが人情というもの。折よく、私の作成したPOPをよく展開してくださっているくまざわ書店ペリエ千葉エキナカ店で、フェアができるレベルの棚が確保できそうだと聞き、1カ月間ウンウン唸りながら完成させたのがこちらです。
(丸善日本橋店 ※展開は終了している可能性があります)
「わりとライトな本好きだった俺が中央公論新社に入って出会った最高の本フェア」(略して俺フェア)。ライトノベルもびっくりの説明的長文タイトルなので、内容は読んで字のごとくです。入社して、先輩や上司にアレも読めコレも読めとおすすめされるうちにすっかり中公色に染め上げられた「俺」が、この感動=気持ちの盛り上がりを読者の皆にも...!と思い企画。コンセプトが思いつかなかったからなんでもありの立て付けにしたのでは決してありません!これはエンタメばかり読んでいた一人の本好きが、様々なジャンルの本に出会って新しい読書の喜びを見つけ出していく物語。そう、フェアとはある種、ストーリーテリングでもあるのです。
2つのフェアの仕事を通して、人の心を動かすのは結局売れそうな文言よりも不器用な生の声なのではないかと、全点に熱いコメントを書いた小冊子を作りました。
これはユニークだぞ~、バズるぞ~、と鼻息を荒くしていたのですが、先日柏書房の新人営業の方によるこちらのフェアを発見。
(紀伊國屋新宿本店3階)
「3年目の壁にぶち当たった私がガチで選んだ、仕事とか恋愛とか人生とかについて悩んでる同世代に絶対読んで欲しい柏の本フェア」。この方、1年目の時に「24歳新入社員の私がガチで選んだ同世代に絶対読んで欲しい柏の本フェア」を成功させたことで2回目を現在展開中とのこと。まさに昨日、紀伊國屋新宿本店で店長の星さんとトークイベントを繰り広げていました。
「24歳新入社員の私が」「同世代に」というこのターゲットの明確さ、メッセージの伝わりやすさ。これが成功の大きな一因だったのではと思います。正直これを知ったとき、「そうすればよかったのか...」と頭を抱えました。タイトルの長さも含め、完敗です。
トークイベント内で星さんが、「キノベスや本屋大賞ができる前、20年前くらいまでは、「書店員が本をお勧めするなんておこがましい」という風潮だった。本は読者が選ぶものであって、書店や版元の側から売っている本を区別するということをしていなかった」というお話をされていました。
本を売る人たちの「好き」があふれたPOPや帯が当たり前の世界で生きてきた私には、かなり衝撃的なお話で、それもそれでもっともだとも思いましたが、ここ20年で変化した「本を売る」という仕事はいったいどういう営みなのでしょうか。
本を売るという仕事の可能性
複数の書店で本の並べ方を比較すると、結構違っていることに気がつきます。また最近、入荷の時点からテーマや嗜好に沿ったやり方をするセレクトショップ的な書店も増えています。
一方、皆さん家に帰れば各々が買った本がそれぞれの並び方で本棚に陳列されていることと思います。自宅の本棚を見られるのは裸を見られるように恥ずかしいのは私だけでしょうか。それは自分の趣味嗜好に加え、思想や考え方までばれてしまうような恐れを感じるからだと思います。
逆に考えれば、出版社も書店も、並べ方や目立たせ方を工夫することで、自分たち(そして本たち)を、見てほしい姿に演出し、読んでほしい読者を選んでいる...そんな気がしています。
フェアは端的にそれを実践していて、珍しい本を集めたものでありつつ、珍しい本の並びを見せる行為でもあります。出版社なら出版社の、書店なら書店の、俺フェアなら「俺」の頭の中身を、意図をもって開陳するという行為。
もともと本にはそういう性質があって、自分の思いついたこと考え付いたアイデアを整理して届けるのが本の役割なのではないか。そして、「こんなところにこんな面白いことを言っているひとがいるぞ~!」と、それを世に広めようとするのが編集者だとすれば、大量に存在する本と本の間に文脈を見つけて、常に新しい読者を創り出すことができるのが、書店および出版社営業の仕事のひとつの可能性なのかもしれません。
ご愛読いただきありがとうございました!
売れる本にはどんな理由があるのか。未熟ながら若手営業社員が探ってきました本連載はこれで終了となります。
少しでも出版社営業の仕事が伝われば幸いです。
営業若手による新連載をお楽しみに!!
これからも中央公論新社をどうぞよろしくお願いいたします。