佐久間宣行はなぜ時代に愛されるのか

谷川嘉浩(京都市立芸術大学講師)
佐久間宣行氏が最近刊行した3冊
(『中央公論』2025年2月号より抜粋)

 ここ数年を象徴する「時代の顔」は誰か。該当する人物は何人も思いつくけれども、テレビやラジオ、ネット配信などメディアやプラットフォームを横断して存在感を示した人というと、佐久間宣行(のぶゆき)が思い浮かぶ。テレビ東京の元プロデューサーで、同局の人気番組「ゴッドタン」「あちこちオードリー」などを立ち上げ、会社を離れた今でもディレクターを務めている。

 2019年から現在に至るまで、ニッポン放送「オールナイトニッポン0(ZERO)」のパーソナリティを担当。24年10月、リスナー超感謝祭として横浜アリーナで開かれたイベントに6社のスポンサーと1万2000人の来場者を集めたほどの人気ぶりだ。また、YouTubeチャンネル「佐久間宣行のNOBROCK TV」は登録者数241万人以上、総再生回数は13億を超える(24年12月現在)。同チャンネルは、インターネット領域などで事業を展開するレアゾン・ホールディングスが、スポンサーとして佐久間に開設を打診したことで始まった。

 コンテンツ配信サービス大手のNetflixとのコラボレーションも多く、星野源と若林正恭がミドルエイジクライシス(中年の危機)をテーマに対談する「LIGHTHOUSE」は話題を呼んだし、お笑い芸人たちがエピソードトークによってサドンデス形式で勝ち抜いていくドラマシリーズ「トークサバイバー!」は、22年に始まったが24年9月に早くもシーズン3が公開されている。

 これらのいずれも興味深いものだが、本論が注目するのは彼の思考パターンである。具体的には、22年4月に刊行され、発売1ヵ月で10万部を突破した『佐久間宣行のずるい仕事術』(ダイヤモンド社、以下『ずるい』)、24年7月に刊行された『ごきげんになる技術』(集英社、以下『ごきげん』)、そして24年11月刊行の『その悩み、佐久間さんに聞いてみよう』(ダイヤモンド社、以下『その悩み』)をベースに、彼の思想的スタイルを詳(つまび)らかにし、時代の思考パターンとどう呼応しているのかを明らかにしたい。

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