タワマンは「格差社会」の縮図
そうして手に入れた「湾岸のタワマン」には、入居してみると低層階と高層階では価格が違い、格差を感じざるをえないという苦しみがあります。小説のなかでも、銀行勤めの健太とさやかが、高層階に住む医師の徹と綾子一家の暮らしにコンプレックスを抱く様子を書きました。
銀行勤めは、日本全体から見ると高年収の部類ですが、上には上がいて、医師や、サラリーマンでも商社やコンサル勤務と比べれば見劣りします。最近はインターネットで調べれば、同じマンション内でも価格の違いがはっきり分かってしまう。年収やマンション価格が可視化されるなか、同じタワマンのコミュニティ内で自分が一段下だと認識してしまうと、劣等感に苛まれます。
健太やさやかも、地元に帰れば「東京に住むエリート」として羨ましがられる存在ですが、比較対象はそこではない。一方で、タワマンのヒエラルキーで一番上の医師の徹や綾子は、健太・さやか夫婦の暮らしは眼中にないけれど、それとはまた別の悩みがあり、隣に新しく建ったタワマンの上層階に住む海外帰りのIT起業家一家の、収入の高さや自分たちにはない自由な生き方に心がざわついたりする。そうした住民同士のパワーゲームが日々繰り広げられているのが、「湾岸のタワマン」の世界です。
(続きは『中央公論』2023年6月号で)
構成:秋山圭子
外山 薫(小説家)
〔とやまかおる〕
1985年生まれ。慶應義塾大学卒業。大手メディアの記者を経てIT企業勤務。Twitterアカウント「窓際三等兵」(@nekogal21)で9.9万人のフォロワーを持つ。2023年『息が詰まるようなこの場所で』で小説家デビュー。覆面作家。
1985年生まれ。慶應義塾大学卒業。大手メディアの記者を経てIT企業勤務。Twitterアカウント「窓際三等兵」(@nekogal21)で9.9万人のフォロワーを持つ。2023年『息が詰まるようなこの場所で』で小説家デビュー。覆面作家。