もし義経が官職をもらうのを断っていたら
逆にもし義経が兄の考えをよく理解していて、後白河上皇が官職をくれると言っても「いや、兄の方針に反しますので結構です」と断っていたら?
これは頼朝にしてみると、ライバルを排除する口実を失ってしまうことになります。義経が「兄貴、俺はがんばったよ」といって鎌倉に帰ってくると「おお、よくやった」という話にはなったことでしょう。
しかしその後は結局、うかつにはしゃぐと、その途端に殺される、というつらい立場を抱えて生きることになったでしょうね。
実際に、もう一人の弟、範頼も殺されています。もし生き残ったとしても、目立たないよう地味に「歴史的にどうでもいい人」として、暮らすことになったでしょう。
それで義経自身は畳の上で死ぬこともできたでしょうが、それでは歴史はまったく動かず、英雄伝説が語り継がれることもなかったかもしれませんね。
※本稿は、『「失敗」の日本史』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
「失敗」の日本史
本郷和人
出版業界で続く「日本史」ブーム。そのブームのきっかけの一つが、東京大学史料編纂所・本郷和人先生が手掛けた著書の数々なのは間違いない。今回その本郷先生が「日本史×失敗」をテーマにした新刊を刊行! 元寇の原因は鎌倉幕府側にあった? 生涯のライバル謙信、信玄共に跡取り問題でしくじったのはなぜ? 光秀重用は信長の失敗だったと言える? あの時、氏康が秀吉に頭を下げられていたならば? 日本史を彩る英雄たちの「失敗」を検証しつつ、そこからの学びや「もし成功していたら」という”if”を展開。失敗の中にこそ、豊かな「学び」はある!
本郷和人
(ほんごう・かずと)1960年、東京都生まれ。東京大学史料編纂所教授。文学博士。東京大学、同大学院で、石井進氏、五味文彦氏に師事。専門は、日本中世政治史、古文書学。『大日本史料 第五編』の編纂を担当。著書に『上皇の日本史』『「失敗」の日本史』『「合戦」の日本史』(中公新書ラクレ)、『日本史のツボ』『承久の乱』(文春新書)、監修に『東大教授がおしえる やばい日本史』(ダイヤモンド社)など多数。