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『コミックス作家 川村リリカ』著者・片岡義男さんインタビュー

片岡義男

アイディアが閃き合う関係

─主人公を務めるふたりの女性たちが魅力的です。「俺」「お前」と呼び合う美人コミックス作家の川村リリカと、編集者の野崎百合子。

 いまはもうない雑誌の『IN THE CITY』に書いた「きみはミステリーだよ」が原型です。それから二年半、中央公論新社の『アンデル』に連載し、最後の「雨のコカコーラ」はこの本のための書き下ろしです。初めは1+1=2だったのですが、おたがいにアイディアが閃き合う関係になると、1×1になり、数式の解答は1ですけど、実際にはふくれあがり充実したものになります。

 

─ふたりの会話から作品が生まれていきますね。

 会話とはアイディアの提供のことです。会話が続けばアイディアは閃き合い、ついさっきまではそこになかったものが、生まれます。その面白さや楽しさについて考えていると、作品はいくらでも書けます。

 

─ふたりともしばしば裸になりますね。その裸が美しくて。

 裸になるだけでそこにストーリーが生まれる、という設定です。リリカが描くコミックスには、魅力的な裸の女性が登場します。多くの場合、その裸は自分自身です。絵に描く世界のなかの裸が、現実の裸と重なり合うのです。絵を描く女性だからこそです。しかもその絵は、気楽に描いたものであり、きわめて巧みでもあります。コミックス作家、という設定をすると、裸は避けてとおれないでしょう。

題名から物語を作る

─団塊の世代や女性蔑視に対する厳しい台詞など、社会批判的な要素も印象的でした。作中の小説では、母親を貶める父親の言葉に、娘が「父は私をも侮辱している」と憤ります。女性を書く際に、意識していらっしゃることはありますか。

 百合子の母親は舞台女優で多忙である、という設定です。リリカは両親が離婚します。リリカをひとりにするための離婚だったのですが、両親の離婚をとおして、学ぶことはたくさんあることを、まず書き手である僕が発見する面白さがあります。一〇年でどれだけ変化するか、この先の彼女たちを書いてみたいです。

 

─「ストーリーに半分はないんだよ。出来るなら全部できる」「題名を作るとは、ストーリーを作る、ということでもあるんだ」という台詞があります。片岡作品の秘密に触れた気がします。

 物語が出来たときにはすでに題名も出来ている、ということかな。題名から物語を作ることはよくあります。黒いニットのタイ、という題名で短編小説を考えているところです。レモネードとあさりの貝殻、という題名ももらいました。友人たちがふとくれるのです。

 

─万年筆やノートブックへの言及もたくさんありますね。

 アイディアは書きとめておく必要があります。どんなものに、なにで書くのか。ノートブックに万年筆は、自分にとっての理想ですね。いろんな紙に書いて、どこかへいってしまう、という現実が自分のものですから、理想的な状況を作品のなかで作ります。

 

─今後の予定はいかがでしょう。

 このまま続けていくだけです。あれをやらなければ、そしてこれとこれも、という日々です。

 

(『中央公論』2020年8月号より)

片岡義男
〔かたおかよしお〕作家。1939年東京生まれ。早稲田大学法学部卒業。在学中から評論を発表し、74年、「白い波の荒野へ」で作家としてデビュー。翌年、「スローなブギにしてくれ」で野性時代新人文学賞を受賞。以後小説、評論、エッセイなどを精力的に執筆している。近著に『珈琲が呼ぶ』『窓の外を見てください』『彼らを書く』など。