うめ(小沢高広・妹尾朝子)著 『東京トイボクシーズ』 【このマンガもすごい!】

難波功士(関西学院大学教授)

評者:難波功士

 高校時代にインベーダーゲームのブームに遭遇し、アーケードゲームで若干遊んだことはあるものの、家庭用のゲーム機にはいっさいさわらず、PCやスマホでのゲームにもすぐ飽きた......という人間にとって、ゲームマンガと聞いてまず思いつくのが、『ゲームセンターあらし』(すがやみつる著、小学館、全一七巻)。あとは、あれをゲームマンガと呼んでいいのか確信はもてないですが、桜玉吉『なげやり─なぁゲームをやろうじゃないか!!』(エンターブレイン、全二巻)。そして、ゲーム制作会社を舞台とする業界マンガとして楽しめた、うめ(小沢高広・妹尾朝子)『東京トイボックス』(講談社、全二巻)、『大東京トイボックス』(幻冬舎、全一〇巻)くらいのものでしょうか。

 そのトイボックスシリーズの登場人物や設定が引き継がれているということで、何の気なしに手を伸ばした『東京トイボクシーズ』ですが、ゲーム音痴の私でも一気にはまりました。今度はゲームを制作する側ではなく、ゲームのプレイヤーたちの物語です。格闘ゲームを中心にeスポーツが盛り上がっていて、世界規模の大会もあるらしいと、知識としては知っていましたが、それを実感できたのはこのマンガのおかげでした。なるほど、中学生男子のなりたい職業ランキングで、一位「YouTuberなどの動画投稿者」に続き、三位の「ゲームクリエイター」をおさえて、二位に「プロeスポーツプレイヤー」がランクインするわけです(二〇一九年、ソニー生命調べ)。

 主人公は十五歳の安曇野蓮(女性)。親との折り合いが悪いらしく、中学生の頃から海外でプロのプレイヤーとして収入を得ていた天才です。富山に住む蓮のもとに、中学卒業の間際、東京の私立白郷学園から高校にeスポーツ科を新設するので特待生としてきてほしいとの声がかかります。高校など行かなくてもゲームで食っていけると、当初は難色を示していた蓮ですが、マネージャーのように蓮の世話をやく女友達ソヨンの説得もあって、二人はともに上京してeスポーツ科の一期生となります。蓮の風貌は、「このマンガ、連載が五年早ければ平手友梨奈主演で映画化されただろうに」といった感じです(伝わる人にしか、伝わらないたとえですが)。要するに、男性優位のゲーマーたちの世界に現れた革命少女です。

 物語はeスポーツ科の同級生たちとの出会いや、白郷学園理事長などeスポーツをめぐる大人たちの思惑がからみあって進み始めます。ゲームの全国高校選手権への出場、謎のコーチやライバルの登場など、そのあたりはスポーツマンガの王道ですが、それぞれ魅力的な登場人物やディテールまで凝りに凝った設定によって、読者はぐいぐいとその世界に引き込まれていきます。

 ゲームをスポーツと呼ぶことに、まだまだ抵抗のある方も多いでしょうが、スポーツ雑誌『Number』が将棋を特集する時代です。動体視力や反射神経が問われるeスポーツの方が、ボードゲームよりはスポーツっぽいように思えます。氷上のチェスとも呼ばれるカーリングは、広くスポーツとして認められています。ならば、身体能力の限りを尽くしてゲーム内のキャラクターを操る格闘ゲームのプレイヤーも、アスリートを名乗っていいのでは。

 あとは教育関係者の一人として、学校にeスポーツ科ができる日も近いと感じました(いや、もうすでにあるかも)。高校の有名スポーツ選手たちが、早期に大学進学を決め、競技を続けることにはもう誰も驚きません。それがeスポーツに波及するのも、時間の問題でしょう。白郷学園は伝統校なのですが、進学実績がやや伸び悩んでいるところに、若い女性理事長がeスポーツ科という爆弾をしかけます。その理事長とタッグを組むのが、トイボックスシリーズではおなじみのソリダスワークス・仙水伊鶴と曲者ぞろい。

 まだまだ蓮たちの物語は始まったばかりですが、チームメイトの神崎真代(男性・美形)と蓮の仲も気になります。二人は果たしてプロeスポーツプレイヤーになれるのか。周囲の大人たちは、どのように変化していくのか。そして某県の「ゲームは一日一時間」の条例は......。

 eスポーツと東京トイボクシーズたちの未来を見守りたいものです。

(現在、二巻まで刊行)

 

〔『中央公論』2020年12月号より〕

難波功士(関西学院大学教授)
〔なんばこうじ〕
一九六一年大阪府生まれ。『族の系譜学』『ヤンキー進化論』など著書多数。