元米交渉官が明かすトランプ関税の真因 アメリカが国際貿易から「退場」する日

- めざすは「リセット」
- TPP離脱が転換点に
- 2極化する政治
めざすは「リセット」
――共和党の第1次ドナルド・トランプ政権(2017〜21年)から民主党のジョー・バイデン政権(21 〜25年)の途中まで6年間、日本などとの通商交渉を担当されました。その経験に基づき、アメリカはいまや自ら築き上げた貿易体制から「Walk out(退席)」しようとしている、と著書で指摘されています。
通商交渉の世界では、相手に脅しをかけ、いったん席を蹴って妥協を迫る「Walk out」はよくあることです。アメリカの場合、そうした一時的な退席から、完全に「Walk away(離脱)」して戻ってこなくなる瀬戸際にあると考えています。
1年前に本を脱稿した時点では、少なくとも完全に離脱はしていませんでした。しかしこの数ヵ月間で、国際貿易システムにおけるアメリカの役割や、システムそのものが深刻に脅かされ始めています。
こうした変化は第2次トランプ政権の行動によって起きたように見えますが、実際は10〜15年ほど前に始まった継続的な物語の一部です。
歴史を振り返ってみましょう。第1次トランプ政権はルールから外れた行動を取りましたが、大枠では国際的なルールブックを順守しようとしていました。一部のページを引き裂いたり、勝手に色を塗り替えたりしながらも、基本的にはシステム内で改革を試みたと言えます。
バイデン政権になり、同じ民主党のバラク・オバマ政権(09〜17年)が取った伝統的な貿易政策に戻ると多くの人が期待しましたが、そうはなりませんでした。トランプ政権ほど攻撃的ではないにせよ、関税は継続され、むしろ追加されたのです。
さらにバイデン大統領と議会民主党は、多くの国産品に差別的で巨額の補助金制度を創設しました。明らかに貿易ルールに反しており、WTO(世界貿易機関)へのコミットメントやルールも大幅に弱められました。
そして再びトランプ政権です。トランプ大統領は1期目にできなかったことを実行に移す機会を得ました。現在の関税政策は、1期目では「箱」の中にあって一部しか取り出されませんでしたが、今度こそすべてを出そうとしています。箱の中身は、国際貿易システムの「リセット」です。
こうした道のりを経て、アメリカは後戻りのきかない「Walk away」の段階に近づいているのです。