『定額制夫のこづかい万歳』吉本浩二著 【このマンガもすごい!】

倉持佳代子

評者:倉持佳代子

 長引くコロナ禍において、お金の問題を見つめ直した人も多いのでは? かくいう私も二〇二〇年に一児の母となり、この時世も相まって先々のことが不安に。将来のことを考え、我が家に導入されたのが「こづかい制」だ。

 夫婦それぞれ月額二万円。浪費家で飽き性の私がいつ挫折するか夫はニヤニヤ観察しているが、ご期待に沿えず申し訳ない。なぜなら私は、『定額制夫のこづかい万歳─月額2万千円の金欠ライフ』を愛読し、その楽しみ方を知ってしまったから。

「節約」をテーマにした作品はここ最近、ちょっとしたブームだ。余計なものを買わないミニマリストを題材にしたマンガも多い。そういえば二〇一九年、ドラマでも注目された『凪のお暇』も、断捨離した主人公が再出発するお話で、豆苗を再生栽培した料理など、その倹約方法も話題になった。

 今回紹介する作品は、大きな枠でいえばそうした潮流にあるのかもしれないが、もっと無骨だ。生活臭あふれ、そして笑える。

 四十六歳、二児の父のマンガ家・吉本のこづかいは月額二万一〇〇〇円。主な遣い道はお菓子だ。あるときは夜中のコンビニで、またあるときはイオンモールのデザートコーナーで。甘いしょっぱいのバランス、コスパなど、あらゆる角度からベストな菓子を熟考する。これが作者の唯一の楽しみだという。しかし、月末には懐が寂しくなり、やりくりに苦心も。フードコートで三二一円の甘納豆を食べる浪人生に嫉妬してしまうこともある。

 本作はそんな吉本のギリギリのこづかいライフと、少額こづかいで楽しむ秘訣を同志に取材するさまを一話完結型で描く物語だ。

 例えば、ポイントを貯めることで節約するサラリーマンは、ポンタカードが使える店での買いものをマイルールに過ごしているという。「僕の『ポンタ』への『覚悟』ですよ...!!」と、キリッと決め顔で語るが、紹介される節約術は、ためになるというよりは「セコづかい」の名にふさわしい。が、これらが一貫してかっこよく紹介されるので、笑える。吉本節ともいえるこのちぐはぐな演出が絶妙なのだ。

 しかし、読み進めるうち、彼らがストイックなアスリートのように、かっこよく見えてくるから不思議だ。それは紹介される登場人物たちが漫然と節約しているのではなく、その先の至福の瞬間に備え、工夫を凝らしているからだ。晩酌だったり、スーパー銭湯、バイクでのツーリングだったり......。いずれもささやかだが、なんとも幸せそうだ。

「"制限"というエキスがあったらこんなになんでも充実するんだ」

 作中の言葉通り、限られた中で追求した至高の時間は何にも代えがたい。お金はたくさんあったほうがいいし、好きに使えるに越したことはない。しかし、それでは得られない豊かさもあると知った。

 さて、私はその境地に辿りつけるのか? 私のこづかいライフは始まったばかりである。

 

〔『中央公論』2021年2月号より〕

倉持佳代子
〔くらもちかよこ〕
京都国際マンガミュージアム研究員
1