『東京タラレバ娘シーズン2』東村アキコ著【このマンガもすごい!】
評者:倉持佳代子
「あの時、ああだったら」「こうなれれば」。タラレバ愚痴りながら女子会を繰り返すアラサー女・倫子、香、小雪。結婚したいけどうまくいかない彼女らの暗中模索ぶりを描いた『東京タラレバ娘』は、二〇一四~一七年に連載され、読者の共感を呼ぶとともに、悲鳴もあがった。「30代は自分で立ち上がれ もう女の子じゃないんだよ?」など、辛辣なセリフが多かったからだ。
連載の開始時は、いわゆる「こじらせ女子」が流行した頃だ。三十~四十代の主人公が「結婚」を前に、理想と現実のギャップに打ちひしがれるマンガは多数あった。背景には、少女マンガが長らく提示してきたロマンティック・ラブの功罪がある。「運命の相手との恋、その先の結婚」への憧れは、青春時代に浴びるように少女マンガを読んだアラサー、アラフォー女性の価値観に深く根を下ろしている。憧れは人生を切り開く活力になるが、ときに自分自身を縛る重たいものにも変わるのだ。
本作は、呪いにとらわれた女性たちのリアルさと、そんな彼女たちへ檄を飛ばす構図が「心にささる」と人気だった。一方で、説教の内容が前時代的だ、という批判的な意見も。ここ数年、少女マンガの変化はめまぐるしい。より多様な女性の人生を描くものが増えた。「幸せ=結婚」の呪いも少女マンガが解いたのだ。
そうした流れの中で本作も時代に合わせた内容に。本当に結婚したいならまず女子会やめろ、といった内容から、その女子会こそが自分らしい生き方で幸せなのだと主人公らを肯定する着地へ。「タラレバ」から解放された清々しいラスト......ではあるのだが、終盤はややメロドラマのような展開で、言葉足らずな幕引きだった。
なので、二〇一九年から始まった『東京タラレバ娘シーズン2』には期待を寄せていなかった。ところがだ!これが蛇足ではなかった。前作の不完全燃焼はこちらで解消してくれそうだ。
第二期となる今作は、令和時代の若者らしい三十歳の廣田令菜が主人公だ。東京の実家住まいでフリーターの彼女は、将来の夢も彼氏もない。海外ドラマをソファに寝転んで観る日々に満足していた。しかし、ある日、小学生の頃の将来の夢が「結婚して楽しい家族を作って楽しくくらす」だったことを思い出し、結婚願望が強くない令菜は動揺する。が、気づく。幸せな子ども時代を送った彼女は、結婚したら、「自分が子供の時楽しかった色んなイベントをもう一回味わえる」と。その夢を叶えるべく、一念発起。「結婚」の先を見据えて動く姿は真実味がある。「恋愛ではなく夢を軸に考えろ」などの実践的なセリフで、前作とは違ったアプローチで婚活の極意が描かれる。
また、職場で出会った変人の森田さん、店で働く男の名前が全員「よしお」のバーなど、ギャグを得意とする東村アキコらしい世界観が前作より物語を軽やかに演出している。
人生は短い。タラレバ言わずに行動せよ。第一期から通底するこのテーマは、第二期のほうがしっくりくる。
(『中央公論』2021年6月号より)
京都国際マンガミュージアム研究員