「言論」「討論」ではハードルが高い..."参加資格"を広げて、もっと多くの人がしゃべれるように

郭 晃彰(「ABEMA Prime」チーフプロデューサー)
郭 晃彰氏
(『中央公論』2024年4月号より抜粋)
目次
  1. テレビにはできない"逆張り"を
  2. 話すハードルを下げる

テレビにはできない"逆張り"を

――ニュース番組「ABEMA Prime」(以下、「アベプラ」)は2016年4月にスタートし、時間帯や番組構成を変えながら8年近く続いています。新しいネット言論の旗手として注目されていますが、視聴者数は現在も伸びているのでしょうか。


 毎日夜9時に「『アベプラ』の時間だ!」とリアルタイムで番組を観てくださる方よりも、見逃し視聴してくださる方のほうが多いんです。もちろん大きなニュースがある時はリアルタイム視聴も伸びますが、今はYouTubeにダイジェスト動画を出したり、一部を縦型のショート動画にしたり、公式サイト「ABEMA TIMES」に番組内容をまとめたテキストを載せたりしていて、それをきっかけに後から観る人の数のほうが圧倒的に多いですね。


――「アベプラ」の視聴者は若年層が中心ですか。


 ABEMAやYouTubeで「アベプラ」を観てくださっているのは、30代がボリュームゾーンでその次が40代です。ショート動画では30代の次に20代の視聴者が多く、若年層にも認知が広がっていると感じます。とにかく知ってもらうのが大事だと考えています。特に開局当初は、テレビや新聞と違ってそもそも存在を知られていないところから始めなきゃいけなかった。それがABEMAに出向する前にテレビ局でやってきた仕事といちばん大きく違うところだと感じています。


――郭さんはもともとテレビ朝日の社会部記者として地上波の報道番組に携わっていらっしゃいました。「アベプラ」に関わるようになった当初、意識した地上波の番組やジャンルはありましたか。


 具体的にどの番組というのはなかったですが、僕にとっては、地上波の報道番組はいつどのチャンネルをつけてもそこまで大差がないんですね。大きな出来事があった時の論調も似ている印象です。それとは違うものをつくりたいと思っていました。

 たとえば今だと、自民党の裏金問題に対してみんな「けしからん」と言っている。でも、そう捉えていない人もいると思うんです。その意見を聞いてみたい。同じ話題を違う方向から見ることは常に意識しています。あえて言うなら"逆張り"するのが番組としての思想だと思っています。


――そうした番組の方向性をつかんだきっかけがあったのでしょうか。


 それで言うと、日本大学アメフト部のタックル事件(2018年)は印象的でした。コーチの指示で選手がタックルした、選手は追い詰められていた、コーチが悪い、監督が悪い......と報道が過熱しましたよね。それから2年後くらいに元コーチを取材したんですが、彼の話は報じられていたことと全然違ったんです。元コーチは選手が高校生の頃からの付き合いで、「彼の才能にほれ込んで育ててきた。『試合に出さないぞ』などと厳しいことは言ったが、二人の関係性の中では激励だった」というような話が頭に残りました。

 あの事件は不起訴になって、誰も罪に問われていません。でも世間では「コーチと監督が悪者」で終わってしまっている。一つの論調が主流になっていても「本当は違うんじゃないか」という見方をしたいし、「両方の立場の情報が揃わないと意見は言えない」という考え方は大事にしています。


――地上波の報道に対する検証のような意図もあるのでしょうか。


 そういうふうに考えたことはないですが、そうとも言えるかもしれないですね。地上波の報道でもネットの炎上でも、一つ石が投げられるとみんながバーッとそっちに走っていくじゃないですか。ただ、わかっていないことが多い状態で議論すると、通り一遍の話になってしまって立体的じゃなくなるんだろうな、と。「アベプラ」では必ずしも速報性のみを求めず、時間がかかっても議論のための材料を集めることを優先しています。


――ニュースには"賞味期限"もあると思いますが、発生からどのくらいまで許容していますか。


 2週間から1ヵ月くらいならいいんじゃないかと思っています。なるべく情報が出揃ってから構成したほうが、そのニュース単体に留まらない普遍的なテーマに落とし込めて息の長い話になるんです。「アベプラ」はアーカイブがネット上にストックされていくので、しばらくしてから観る人にとっても面白くなるよう、古くならない内容にすることを意識しています。

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