プリキュア「女の子だって暴れたい」から20年――21世紀型アニメヒロインが大人をもひきつけるわけ

鷲尾 天(東映アニメーションプロデューサー) 聞き手:鈴木美潮(読売新聞教育ネットワーク事務局専門委員)

「女の子らしく」とは言わせない

――20年間にわたるシリーズ全体を貫くプリキュアの「芯」は何だとお考えでしょうか。


 キャラクターが一生懸命に生きている、ということに尽きるんじゃないかな。主人公が自分の足で立ち、自分の頭で考えて行動する。それこそが「プリキュア」という物語の根幹です。


――女子の活躍を描いていることからジェンダー論と絡めて評されることも多いわけですが、放送開始時にはジェンダーという言葉自体があまり使われていませんでした。


 当時から西尾監督はジェンダーの意味を理解していて、「作品に活かさないといけない」と力説していました。プリキュアでは「女の子らしく」「女だから」という台詞は使わなかったし、悔し涙はあっても、やたらと目に涙を浮かべるような描写は取り入れなかった。監督も私も、特に気をつけたのは走り方です。(腕を身体の横に振る)「女の子走り」は絶対にさせず、前後に腕をしっかり振らせるようにしました。


――プリキュアは女同士の友情、連帯を示す「シスターフッド」の物語でもあります。この言葉や概念も放送開始時にはあまり知られていませんでしたよね。


 男の子同士の友達がいるんだから、女の子同士でも無二の親友がいて当たり前じゃないか、と考えました。そこをきちんと描けたら、成立する物語があるんじゃないか、と。


――私の世代は「女の敵は女」「女同士の友情が成立するはずがない」と、周囲によく言われたものです。


 そんなことないですよね(笑)。視聴者の小さい子たちは、普通に女の子同士で遊んでいる。大人になってそれが成立しなくなると考える方が不自然です。今、一緒に遊んでいる友達と、この先も仲良くできるんだということを、きちんと描いてあげたかった。


――アニメの作り手、特にアニメーターは女性の活躍が目立ちますが、プリキュアの制作現場も女性が多いのでしょうか。


 圧倒的に女性が増えました。最新作ではプロデューサーは全員女性です。演出やキャラクターデザインにも女性が多い。みなさん、キャラクターのちょっとした仕草やデザインについて、子供たちが「可愛い」と喜ぶ方向性を直感的に見抜く強みがあるように思います。

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