選挙を脅かす襲撃事件と、日本の要人警護
福田 充(日本大学教授)

(『中央公論』2025年7月号より抜粋)
- 要人テロは民主主義への攻撃である
- 無差別テロの潮流から要人テロの復活へ
- ローンオフェンダーによるテロは昔からあった
要人テロは民主主義への攻撃である
昨年のアメリカ大統領選挙において、共和党トランプ候補が演説会場で銃撃され、その映像はテレビやネットを通じて世界に流れた。実行犯はその場で警護部隊により射殺されたため、動機もその背景も解明にはいたっていない。トランプ候補は暗殺を免れ選挙に勝利して大統領に返り咲いた。アメリカの大統領は歴史的に、これまでもたびたび暗殺の危機に見舞われ、何人も暗殺されてきた。
そして日本でも、2022年に安倍晋三元首相が奈良で銃撃され暗殺された。その翌年には岸田文雄首相が和歌山で爆弾により襲撃されたが未遂に終わった。このような大統領や首相が直接狙われる攻撃は「要人テロ」、または「要人暗殺テロ」と呼ばれる。
大統領や首相は、民主主義国家においては国民が選んだリーダーであり、国民の代表である。それ故、要人テロは民主主義への攻撃であると同時に、国民への攻撃とみなすことができる。
だからこそ要人を守る警備や警護、すなわち「要人警護」は国家をあげて実施される危機管理の要という意味をもつ。要人を守るということは民主主義を守ることと同義であり、暴力から「言論の自由」や「表現の自由」など基本的人権を守ることと同義である。
「政治と暴力」という切り口から、日本でも繰り返されてきた要人テロに日本人はどう向き合ってきたか、要人警護はどうあるべきか、テロ対策はどうあるべきかを考察する。