昭和レトロはどこへ行く――令和の若者にウケるわけ

高野光平(茨城大学教授)
写真提供:photo AC
(『中央公論』2024年6月号より抜粋)

昭和レトロは繰り返す

 昭和レトロが若者に流行っているらしい、と世間が気づいたのは2017年頃だった。「インスタ映え」が新語・流行語大賞をとった年で、純喫茶やクリームソーダが"映え"の対象になりつつあった。大阪府立登美丘(とみおか)高校の「バブリーダンス」が人気になったのもこの年である。芸人・平野ノラが1980年代のバブルカルチャーを揶揄的にとらえたのに対して、若者たちは明るく力強いバブルを素直に肯定しているように見えた。

 それから7年、各種メディアは若者がレトロを愛でる様子を取り上げ続けている。昭和歌謡、カセットテープ、アナログレコード、フィルムカメラ、花柄のコップ、VHS風に動画が撮れるアプリ、コンプライアンスおかまいなしのテレビ番組、レトロゲーム、レトロなビルや看板、昭和のアンティークグッズ。彼らの愛好は多岐にわたる。厳密にはすべてが昭和の文化ではなく、平成初期のものを含むが、これをざっくりと「昭和レトロブーム」と呼ぶ。

 昭和の文化や暮らしを愛好するブームは今回が初めてではない。2005年公開の映画『ALWAYS三丁目の夕日』の大ヒット前後にも長いブームがあった。1990年代には、若者の間で60年代から70年代風のファッションやデザインが人気になったし、レトロをテーマにした観光地や娯楽施設(門司港や新横浜ラーメン博物館など)に多くの人が集まった。

 80年代後半にもレトロブームが起こっている。昭和だけでなく江戸情緒や大正ロマンなど古ければ何でもありの流行で、若者から火がついて全世代に広がった。セルロイド製品、駄菓子、旧字体、温泉、クレージーキャッツ、白黒写真、日活映画、ゴジラなどがもてはやされた。もっとさかのぼれば、74年にマンガ『三丁目の夕日』の連載が始まった時も、ノスタルジーブームと言われていた。

 高度成長が終わった頃から、昭和の文化や暮らしを見つめなおす傾向はずっとあった。ブームになったり地下にもぐったりの強弱はあるが、昭和愛好は、昭和のさなかから途切れることなく続いてきたのである。

 もちろん時代によって、昭和の何に目をつけて、それをどう愛でるのかはさまざまだ。現在のレトロブームは、第一に若者中心であり、第二に昭和末期(80年代)と平成初期をレトロの対象に含んでいるところに、その特徴がある。

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