山を安全に登る10の方法、より楽しむ10のアイデア

羽根田 治(フリーライター)
日光白根山(2578メートル)は栃木県と群馬県にまたがる活火山。日本百名山の一つ。男体山や中禅寺湖が望める。撮影:羽根田 治
 夏山シーズンを迎え、今年は富士山の登山規制などが話題となった。山に登るにあたって、YouTubeから情報収集する人は少なくないが、そこには安易に信じては危ない落とし穴も存在する。最初にすべき準備から楽しみ方まで、著書多数のノンフィクションライターが解説する。
(『中央公論』2024年8月号より抜粋)

登山人口は回復傾向に

 天気のいい週末、全国各地のポピュラーな山は、どこも大勢の人たちで賑わう。その顔ぶれは、若者のカップル、単独行の女性、大学生のグループ、初老の夫婦、中高年の登山サークルらしきパーティ、小さな子供連れのファミリーなど、実に多様で華やかだ。中高年登山者しか目に入らなかった30年ほど前に比べると、性別や世代を超えて登山が幅広い層の人たちに親しまれている今の状況は、隔世の感すらある。

 日本生産性本部が毎年刊行している『レジャー白書』によると、登山人口はコロナ禍前の数年は600万人台で推移していたが、コロナ禍の2020年は460万人、21年は440万人と減少した。しかし、行動制限がなくなった22年は500万人と再び増加、23年の統計は現時点でまだ発表されていないが、前年よりも増えるものと見られている。

 もっとも、山ガールブームの強烈な追い風を受けた09年、10年の登山人口は1000万人を超えていた。それと比べると「半分にまで減ってしまったのか」と見る向きもあるかもしれないが、00年から08年までの登山人口は500万~900万人台なので、今はそのころの水準に戻りつつある過程ともとれる。

 そもそもブームが大きくなればなるほどいいのかというと、個人的には決してそう思わない。今シーズンから新たな入山規制が始まる富士山のように、ブームによって人が増えすぎると、環境破壊、登山道の渋滞や荒廃、し尿処理、登山者のモラルの低下、遭難事故の多発など、さまざまな問題が持ち上がってくる。どの山にしても、山の環境やそれを取り巻くシステムに大きな負荷がかからないように、適正利用されるのがベターなのではないだろうか。

 さて、全国の主要山岳での山開きもほぼ終わり、いよいよ夏山シーズンが開幕する。これから登山を始めようとしている人たちや、登山を始めたばかりの人たちには、山の自然の素晴らしさ、登山の楽しさを満喫できる、最もいい季節の到来である。

 ここでは、シーズンを目前に、リスクを回避しながら登山を楽しむためのノウハウを紹介していこう。

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