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探検家の家族はつらいよ!? 対談:服部文祥×角幡唯介

サバイバルと家庭の間で、僕たちが考えていること
服部文祥(登山家・作家)× 角幡唯介(作家・探検家)
服部さんのご自宅でお手製の肉饅頭をいただきながら
この秋、登山家の服部文祥さんが『サバイバル家族』を、探検家の角幡唯介さんが『そこにある山』を上梓した。思索しながら活動・執筆する二人の最新作は、奇しくも「結婚」そして「家族」が重要なテーマとなっている。以前から交流のある二人が家族、自身の活動、生と死について語り合った。さらに、二人の対談を聞いた服部さんの妻・小雪さんに感想を寄せてもらった。

「結婚を止めに来ました」

角幡服部さんの『サバイバル家族』は小雪さんとの馴れそめと、結婚から始まりますが、それにしてもよくこんなことやりましたね(笑)。小雪さんには婚約者が別にいたのに、服部さんは「結婚を止めに来ました」と割って入って婚約を白紙に戻させ、自分が結婚しちゃう。映画みたいな話だなと。それを書いちゃうことに驚きました。僕は自分の恥部を晒すほうだけど、この手の話は恥ずかしくて抵抗がある。

服部ちょっと恥ずかしいことは恥ずかしいけど、事実だからなあ。俺は出会ったときにピンと来た。でも小雪のほうはまったくそうじゃなくて、ホント大変だった。婚約破棄を直訴しに行ったのも、出会って五年後、紆余曲折の末だし......。しかも彼女の結婚がとりあえず無期延期になったからと言って、俺との結婚が決まったわけじゃない。ただ、状況は転がり始めているから、必ず俺のほうに転がって来るだろうと思っていたけど。そうじゃなきゃおかしいよね。無期延期になった時点で、心では「小雪と結婚だー」って叫んでた。

「俺は出会ったときにピンと来た」

角幡恥ずかしいから、普通は小説で書くんじゃないですか。

服部物書きたるもの、なんでもネタにして売らないと(笑)。角幡君も本誌連載をまとめた『そこにある山』で奥さんとの結婚の経緯についてたっぷり書いていたじゃん。角幡的な抽象的思考にすりかえて、「結婚とは事態である」とか、自らの意志ではままならない「中動態」だなんて......。哲学風味の分析こそ、本当かよ、って疑わしい。通常、恋愛とは熱病のようなもので、結婚なんか勢いだろ?

角幡妻からは「書いていることが事実と違う」って怒られましたよ。僕らの馴れそめは仲間内の飲み会で、最初のコンタクトは妻から僕へのメールなんです。その顚末を書いたのだけれど、妻からするとそれは違う。僕からの無言のメッセージを受信して自分は連絡したという理解なのかな。僕にもよくわからない。事実は書いた通りのはずだけれど、妻からすればそれが事の始まりなのだと。妻の怒りはそこにあるようです。

「妻の怒りはそこにあるようです」

服部あはははは。そこは嫁さんの希望通りにしておくのが、男の甲斐性ってもんだろ。じゃあ、結婚するのかしないのか、奥さんに「匕首(あいくち)を突きつけられ」たってところも怒られた?

角幡実際にそういう雰囲気だったから、それは大丈夫でした。どちらが最初にけしかけたかが重要みたいです。まあ、何が事実かは受け取り方によって変わりますね。

匕首(あいくち)を突きつけられた角幡さん

服部でも当時、彼女だった嫁さんと別れると決めたら涙が溢れてきて、やっぱ結婚することにしたって、どこかに書いていたよなあ。

角幡いや、それは書いてませんよ。

服部そうか、それは飲んだときに話していたことか。

服部さんの発言の誤りを指摘する妻の小雪さん

角幡だから、そういうセンシティブなことは僕には書けない。子どもが二、三歳になるまで、うちはちょっと地獄のような感じもあったし。

服部ははは(笑)、いつも言ってたよね。うちは仲がいいから想像できなかった。でも子どもが生まれて関係性が変わったのだとしたら、やはり「子はかすがい」。

角幡愛情は感じますね。霊長類学者の山極壽一のゴリラの父親理論は知ってます? 父親って妻と子供から認められて成りたつ社会的擬制だそうですが、自分も家族から父と認められているという感覚はある。

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