探検家の家族はつらいよ!? 対談:服部文祥×角幡唯介

サバイバルと家庭の間で、僕たちが考えていること
服部文祥(登山家・作家)× 角幡唯介(作家・探検家)

「家庭の崩壊」をも覚悟して

――二人とも積極的に育児をしていますが、一方で活動のために家を長期間あけると、奥さんが育児を一人で担うことになります。それについて苦言を呈されませんか?

角幡最近は半年を北極で活動し、残りの半年は主に自宅で執筆仕事をしています。家にいれば子どもといる時間も当然長いので、風呂に入れたりご飯食べさせたり。それを特別に「育児」とは思わないですね。
一方で、子どもが生まれた当時の妻は大変だったのかな。二〇一五年にグリーンランドに行ったときは一年以上家をあけるつもりだった。まだ子どもが生まれて一年ちょっとで、旅立つときは「家庭が崩壊するかもしれない」と覚悟して出ました。実際、妻は大変だったらしく、現地から電話したら随分弱っていて、「唯介には新聞記者に戻ってほしい」「私は今の生活が全然楽しくない」とか言いはじめて、これはまずいと思いました。結局、滞在許可が延長できなかったこともあり帰国しましたが。僕の娘は一歳から三歳の間、めちゃくちゃかわいかったのだけれど、妻は当時まったくそう思えなかったらしく、娘の写真を今になって見返して「うちの子、こんなにかわいかったんだね」と言っている。かなり育児ストレスはあったようです。

服部家をあける期間は角幡君ほど長くないけれど、俺もちょうど長男が生まれた頃は積極的に山に出ていたときだったので、育児は妻に任せっきりだったな。一度山に出てしまえば連絡も取れないし、今になって妻に聞くとやっぱり大変だったみたい。第一子のときは精神的につらくて、第二子、第三子になると育児に慣れはするけれど、今度は物理的に大変。疲れ果てた小雪が突然泣き出したことが二、三度あったな。正直なところ、その大変さは言われるまでまったく認識していなかった。むしろ俺は、子どもが生まれたことで遺伝子を残すことができた安堵があって、これで思う存分危険な登山ができるぞくらいに思っていた。

角幡当時はお互い心に深手を負うような喧嘩をしていたけど、探検と育児にも原因があったのかもしれない。でも、ここ三年くらいはまったく喧嘩してないですね。

服部もうあきれ果てているのかもしれんぞ。(笑)

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