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大山くまお レビューと考察の狭間で映画評論の現在地を考える

大山くまお(ライター・編集者)

レビューから考察へ?

 映画評論を取り巻くメディア環境はどんどん移り変わっていく。90年代までは雑誌(あるいは雑誌と本の中間であるムック)が評論の中心だったが、00年代にはインターネットが普及。それまでは雑誌への投稿という形で映画評を書いていた人たちが、誰でも自身のホームページ上で評論を発表できるようになった。04年には「影響力高まる、ウェブ上の映画批評」というJason Silvermanによるコラムがウェブメディア「WIRED」に掲載されている。ウェブの映画評は小規模な週刊新聞ぐらいの読者数を得ているにもかかわらず、映画の宣伝担当者はウェブの映画批評家に敬意を払わない――という内容だ。まだ「インフルエンサー」という言葉が頻繁に使われるようになる前の時代の記事である(この言葉が使用されるようになるのはブログブームが起きた07年頃から)。なお、この時期は映画と同様にアニメとゲームに関する評論も活発にウェブ上で行われ、専門誌も刊行されたが、視聴者(ユーザー)のニーズに合わなかったのか、22年現在、いずれも不思議なほど盛り上がっていない。

 ウェブがはっきりと影響力を持つようになったのは、レビューサイトとSNSが一般に浸透した10年前後のことだ。98年にオープンした映画情報サイト「映画.com」が07年に「食べログ」などを運営するカカクコムの子会社となり、ユーザー投稿型のレビューサイトにリニューアルしたのは象徴的な出来事だった。映画の批評が「食べログ」化したわけだ。22年現在、「映画.com」、12年にスタートした映画レビューサイト「Filmarks」の月間PV数はそれぞれ1億をゆうに超えている。ツイッターをはじめとするSNSの普及とともに、「誰でも評論家」時代が本格的に到来したといえるだろう。

 とはいえ、レビューサイトに投稿される映画評は「面白かった/面白くなかった」というユーザーの感想を中心にした印象批評がほとんどである。「映画.com」や「Filmarks」がユーザーのレビューと最新の映画ニュース、映画館の情報を主たるコンテンツとしていることからわかるように、読者は批評を読んで知識を得たいのではなく、あくまでこれから観ようとする作品が満足できるものなのか、そうでないのかの尺度としてレビューサイトを覗いているわけだ。

 なお、10年代には「リアルサウンド映画部」をはじめとする映画評論を取り扱ったウェブメディアがいくつも立ち上がるが、やがて映画評ではなくテレビで放送されているドラマ評がPVランキング上位をほとんど独占するようになった。このことはやがて視聴者によるドラマの「考察」ブームへとつながっていく。

中央公論 2022年7月号
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大山くまお(ライター・編集者)
〔おおやまくまお〕
1972年愛知県生まれ。名言、映画、野球、音楽など幅広い領域で執筆。著書に『「がんばれ!」でがんばれない人のための“意外”な名言集』『名言のクスリ箱』『「呪術廻戦」の強さを手に入れる言葉』、共著に『バンド臨終図巻』『クレヨンしんちゃん大全』などがある。
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