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『新書大賞2023』受賞・千葉雅也 今「現代思想」が求められる理由とは? 管理を強化し、誰も傷つかず、安心・安全に暮らせるのが本当にユートピアなのか

現代思想入門
千葉雅也
「誰も傷つかず、安心・安全に暮らせるのが本当にユートピアか」と千葉さんは説きます
1年間に刊行された新書から、有識者、書店員、各社新書編集部らに投票してもらい、その年「最高の一冊」を選ぶ「新書大賞」。2021年12月から22年11月に刊行された1200点以上の新書を対象とした「新書大賞2023」の結果が23年2月10日に発表され、『現代思想入門』が大賞に輝いた。「現代思想の真髄をかつてない仕方で書き尽くした『入門書』の決定版」とうたった同書はベストセラーとなり、7刷13万部(電子含む)と、版を重ねている。同書から「なぜ今、現代思想が必要か」について記した箇所を抜粋・編集の上で紹介する。

「きちんとする」方向へといろんな改革が進むなかで

今なぜ現代思想なのかを説明させてください。

大きく言って、現代では「きちんとする」方向へといろんな改革が進んでいます。これは僕の意見ですが、それによって生活がより窮屈になっていると感じます。

きちんとする、ちゃんとしなければならない。すなわち、秩序化です。

 秩序から外れるもの、だらしないもの、逸脱を取り締まって、ルール通りにキレイに社会が動くようにしたい。企業では「コンプライアンス」を意識するようになりました。のみならず、我々は個人の生活においても、広い意味でコンプライアンス的な意識を持つようになったというか、何かと文句を言われないようにビクビクする生き方になってきていないでしょうか。

今よりも「雑」だった時代の習慣を切り捨てることが必要な面もあるでしょう。しかし改革の刃は、自分たちを傷つけることにもなっていないでしょうか。

こうした現代の捉え方を、ここではごく大ざっぱに言うだけにします。じゃあ具体的にどういう問題があるかと例を挙げると、その例だけに注目して拒絶され――「それをきちんとするべきなのは当然だ」と問答無用の反発を受けて――、話を聞いてもらえないかもしれないからです。

ですから時代の大きな傾向として言います。現代は、いっそうの秩序化、クリーン化に向かっていて、そのときに、必ずしもルールに収まらないケース、ルールの境界線が問題となるような難しいケースが無視されることがしばしばである、と僕は考えています。

何か問題が起きたときに再発防止策を立てるような場合、その問題の例外性や複雑さは無視され、一律に規制を増やす方向に行くのが常です。それが単純化なのです。世界の細かな凹凸が、ブルドーザーで均(なら)されてしまうのです。

物事をちゃんとしようという「良かれ」の意志は、個別具体的なものから目を逸らす方向に動いてはいないでしょうか。

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