誰も傷つかず、安心・安全に暮らせるというのが本当にユートピアなのか
そういう状況に対して僕は、さまざまな管理を強化していくことで、誰も傷つかず、安心・安全に暮らせるというのが本当にユートピアなのかという疑いを持ってもらいたいと思っています。というのも、それは戦時中のファシズムに似ているからです。
僕は祖父母が戦争を経験しているので、皆が一丸となってひとつの方向を向くことへの警戒心をギリギリ教えられてきた世代です。そういう昭和の記憶があるからこそ、一人の人間が逃げ延びられる可能性が倫理的につねに擁護されるべきだと考えるのです。犯罪の抑止は必要だとしても、過剰な管理社会が広がることへの警戒は言わねばならないし、現代思想はまさにその点に関わっており、人が自由に生きることの困難について語っている思想だと思うのです。
秩序をつくる思想はそれはそれで必要です。しかし他方で、秩序から逃れる思想も必要だというダブルシステムで考えてもらいたいのです。