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大政奉還と政権交代の研究

――改革に挫折した権力を待ち受ける運命
野口武彦

(記事一部抜粋)


......大政奉還という奇策で慶喜追討に肩透かしを食わされた岩倉具視・大久保一蔵(利通)・西郷吉之助(隆盛)らの倒幕派は、新たに戦略の練り直しを始めていた。徳川家の内部も大混乱だ。十月十七日には江戸城で大評定があり、小栗忠順など革新派官僚が政権返上に強く反対した。老中格兼陸軍総裁松平(大給)乗謨・老中格兼海軍総裁稲葉正巳・大目付滝川具挙などが軍艦順動に乗って西上してくる。少し遅れて若年寄兼陸軍奉行石川総管が歩・騎・砲三兵を引率して軍艦富士山で続く。全員が大政奉還に反対し、口々に上表を取り消して原状復帰を図れと叫び立てる。


 その後の幕末史が王政復古クーデターから鳥羽伏見の戦いへとダイナミックにうねってゆく過程はよく知られているので、ここでは繰り返さない。本稿のテーマは、徳川幕府には死活的に重要だった政治改革がどこまで実行され、どこでどのように致命的な手遅れに立ち至ったかという問題の吟味である。


 一国の興亡を決するのは、外部変動と内部修復とのスピードくらべである。


 自称坂本龍馬、ナンチャッテ高杉晋作、吉田松陰もどきが輩出している現代日本の政治家が、本気で明治維新から学ぼうとしているかどうかはよく知らない。ただ一つ言えるのは、現今の政権争いを見ていると、幕末維新の政治史が逆照射され、ナマの人間のドラマとして眼の前に浮かんでくることだ。維新史は人間喜劇であり、英雄劇ではない。現代を見ていると明治維新がよくわかる。

(全文は本誌でお読み下さい)

〔『中央公論』2009年8月号より〕