治安維持法、戦争景気、大衆文化――戦時下の日本は暗黒だったのか
井上寿一(学習院大学教授)
(『中央公論』2025年1月号より抜粋)
ウクライナ戦争とガザ紛争が続くなかで、戦後80年を迎える。ウクライナとガザに関係する当事国の人びとは、戦時下、どのように暮らしているのか。メディアが伝える断片的な情報からは全体像がわからない。これらの軍事紛争を対岸の火事として傍観するのではなく、今の戦時下における人びとの生活を想像しながら、日本はどのように関与するかを考えるべきである。
この観点に立って歴史的な想像力をめぐらすと、戦後の平和な80年間よりも戦争が現実だった時代にさかのぼることになろう。2025年は昭和100年でもある。「昭和」が100年続いていると考えると、今は戦争の時代の延長線上にあることが意識される。昭和の戦争は今日に示唆するところがあるだろう。以下では昭和の戦争期を政治・経済・社会・文化の視角から再構成して、そこから何を学ぶことができるのかを明らかにする。