イランが導火線となり、世界の核拡散が幕を開ける

宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)×吉崎達彦(双日総合研究所副所長)×渡部恒雄(東京財団上席研究員)
北朝鮮、インド、パキスタン、中東諸国……
核拡散を食い止めたい大国と、核武装に駆り立てられる周辺諸国。
絶望のゲームに勝者はいるのか

イランの核開発は止まらない

吉崎 二〇一〇年に、宮家さんが研究主幹を務められているキヤノングローバル戦略研究所主催の政策シミュレーション「イラン核開発疑惑」に参加させていただきました。数十人が各国首脳の役割を担い、イランの核開発に対して外交を展開するという真剣なゲーム。私は光栄にも日本国首相を「拝命」しましたが、二日間の濃密なやり取りを経て、二つのことを学びました。
 一つはこれはイランを止めるゲームではなく、実はイスラエルの単独軍事行動を止めるゲームだったということ。もう一つは、この件に関して日本の政府ができることが極めて限られているという事実です。

宮家 経営者の知的運動神経を鍛えるためのゲームでしたが、やはりそんなに明るい未来は描けませんでしたね。実際イランの「核兵器を持ちたい」という意志に待ったをかけるのは、極めて難しいと思います。理由は単純で、第一に、「近隣のインドやパキスタンが核武装しているのに、"大国"イランが持たないのはおかしい」という国家意識。第二に、北朝鮮は「持って」いたから攻められなかった、サダム・フセインは持っていなかったから攻められた......。

渡部 リビアもそうですね。カダフィの核開発放棄は、当時「リビアモデル」として賞賛されました。ところがアラブの春の後、反政府勢力を虐殺から守るという名目でNATO軍が介入、結局体制は転覆してしまった。その結果、「あの時核を放棄しなければ、カダフィは生き残れたのに」という、逆の意味でのリビアモデルが教訓化されました。
 昨年末、IAEA(国際原子力機関)の天野之弥事務局長は、イランが核兵器保有に向け、開発を進めているという疑念を裏付ける数々の情報を列挙した報告書を発表しました。以来、イスラエルが先制攻撃で核施設を破壊する危険性も取りざたされ、世界中の耳目を集めているわけですが......。

宮家 イランの体制はいろんな意味で危機に瀕しています。政権のサバイバルのためにも、国民が圧倒的に支持する核武装に邁進するという流れは止まらないのでは。イラン政府が兵器製造まで決断したと言い切る証拠はありません。でも兵器の形になっていなくてもいいのです。造る能力があって、やろうと思えば瞬時に組み立て可能なレベルまでいけば、十分な抑止力、外からみれば脅威になりますから。

〔『中央公論』2012年6月号より〕

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