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世界標準からみた「保守」「リベラル」

会田弘継(共同通信社論説委員長)×宇野重規(東京大学教授)

日米首脳会談「成功」の背景

会田 今年二月二十二日に行われたオバマ大統領と安倍首相による日米首脳会談の話から始めましょう。事前の期待度はあまり高くなかったのですが。

宇野 リベラル派のオバマのところに、国際的なイメージとしてはナショナリストでタカ派の安倍が乗り込んでいって、この二人は話が合うだろうかと見られていましたが、思った以上にうまくいった。これまでのところは「アベノミクス」の良い側面が出ていて、支持率も高く、自民党内をうまくまとめ、事実上のTPP交渉参加表明という大きなお土産を持っていった。これらをオバマは高く評価したのだと思います。

会田 アメリカでもほぼ好評で、TPPの問題を中心に、日本もようやく復活に向けて頑張る人が首相になったというポジティブな受け止め方が多かった。ただ、東南アジアなどでは、オバマが尖閣問題をはっきりとは言わなかったし、この問題で共同声明も出さなかったという意味で、失敗ではないかという見方もありました。オーストラリアの新聞にも、安全保障面で物足りないと書かれています。東南アジアやオーストラリアが中国を軸とした世界規模の変化の中で、今回の日米首脳会談を捉えていた表れでもあります。

宇野 たしかに、日米が価値観を共有するパートナーとしてアジアにおける大きなプレゼンスを示し、中国に対して一定のプレッシャーをかけるというところまでは行きませんでした。双方がかなり慎重な態度に終始した。

会田 安倍については後ほど話をするとして、今回の首脳会談の「成功」の背後にある二期目を迎えたオバマの変貌に話を進めましょう。
 我々にとって印象深いのは、一期目の最初の頃に行ったカイロ演説やプラハ演説です。前者はイスラム圏に手を差し伸べ、後者は核兵器全廃に向けてアメリカが動く、というまさに誰も否定することのできない理想を掲げました。ただ、一期目の経験を通じて、オバマは現実的な外交が理想だけでは済まないという厳しさを理解した。中国の擡頭に対しても、極めて現実的な対応に移りつつあり、それが近年のアジア重視という形をとっている。日本との関係に慎重なのも、尖閣についてパブリックな発言をしなかったのも、中国というものを見据えているからという気がします。

宇野 たしかにオバマは理想主義者として登場しました。でも、当たり前ですが、純粋な反戦主義者ならアメリカの大統領に当選するはずがない。アメリカ全体がどちらかといえば内向きになっていくなかで、オバマの国際政治における理想主義的な側面が薄くなり、戦略家としての側面が色濃くなってきた。アメリカが今後は国際社会にオーバーコミットメントできないという大前提があり、だからと言って無責任に撤退するわけにもいかない。どうすれば最も効率的にアメリカの世界戦略を描くことができるかを考えているはずです。

会田 ちょうど北東アジア三ヵ国が政権交代して、いろいろなものを組み直し、調整していく時期でした。

宇野 その意味でも、この時期に首脳会談を行ったのは、双方にとってそれなりのメリットがありました。今はうまく付き合っていこうというオバマのスタンスもあって、安倍にとってはラッキーだったのかもしれません。

〔『中央公論』2013年5月号より〕