朱建栄氏はなぜ拘束されたのか
在日中国人が次々中国で拘束される
十月上旬、北京で開かれた学術会議に出席するため中国を訪れた日本在住の研究者が、同国の国家安全省当局者に拘束された。一週間の滞在を経て、北京空港からいままさに日本に帰国しようとしていたところだった。この研究者は数年前に日本国籍を取得したものの、約二〇年前に来日した元中国人であり、いまでも中国名を使って活動している人物だ。
研究者は北京郊外の施設に連行され、日本での学術活動の詳細や、警視庁公安部、公安調査庁、内閣情報調査室など日本の情報機関関係者とのこれまでの接触、交流についてしつこく聞かれ、三日ほどで解放されたようだ。その際、「拘束されたことを誰にも言うな。急病のため帰国が遅れたと言え」と口止めされたという。
この研究者は妻子とともに日本で暮らしているが、兄弟をはじめとする親族の大半は中国国内で生活している。中国当局者が「協力しなければ、親族に迷惑がかかるかもしれない」などと言って脅したというから穏やかではない。日本に帰国後、この研究者は「日本国籍を取得していなければ日本に戻れず、そのまま刑務所行きだったかもしれない。二度と中国に行きたくない」と周辺にもらしたという。
中国の対日関係者によれば、今年夏以降、この研究者と同じような経験をした日本在住の中国人、または元中国人が一〇人以上いるという。中には立件され、日本に戻れなくなった人もいる。日本で中国語の新聞『新華時報』を発行している蘇霊氏や、『人民日報』元東京支局長ら少なくとも六人が、十月末現在も拘束されたままだということが、親族や知人などの証言によって確認されている。その中で最も注目されたのが、日中両国のマスコミに頻繁に登場し、高い知名度を誇る東洋学園大学の朱建栄教授のケースだ。
朱氏は七月十七日、会議に出席する目的で故郷の上海を訪れた後、連絡が取れなくなった。その後、情報漏洩の疑いで中国国家安全省に拘束されたことが明らかになった。中国の情報筋によると、朱氏は現在、浙江省金華市郊外にある国家安全省の施設で取り調べを受けているという。
〔『中央公論』2013年12月号より〕