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全人代が示す習・李政権の課題

川島真(中国外交史研究者)

 二〇一四年三月、全国人民代表大会(全人代)が開催された。成立一年強を迎えた習近平・李克強政権が政権の成果と課題を述べたが、その基調にはまさに大国中国としての尊厳を保ちつつも、共産党政権の維持存続のための諸政策を提示しようとする政権の課題と苦衷が見えていた。

 もちろん、世界第二の経済大国となり、「豊かさ」も次第に達成されるなか、これまでにないほどの自信も見えるし、大国としてその尊厳を保とうとする姿勢も見える。昨今の政府首脳の外交関連の発言には、とりわけ周辺諸国に対する外交の面で自信を深めている姿が見て取れる。これらは中華人民共和国としての六五年の歴史の、ひとつの到達点である。

 だが、その「豊かさ」や大国としての尊厳を求める過程で見過ごされてきた、あるいは後回しにされてきた諸課題が累積している状態にあるのも確かである。それら諸課題をめぐって、政府に対する国民の批判的な声が集まっていることも、十分に認知されているに違いない。中国共産党としては、その統治の成果を主張しつつも、同時に、現在起きている問題に対処している姿を内外に示すことに必死になっている、といったところであろう。

 対処すべき問題のうち、とりわけ社会・経済をめぐる問題は深刻だ。従来、社会・経済面でも、富の再分配をめぐる都市と農村、沿海部と内陸部の格差問題、戸籍制度やトウ案(国家による国民管理を目的に作成される個人の経歴や思想等の調査資料)など、社会的流動性や社会保障を制限する諸制度の問題が指摘されて久しい。農村部などでも年金制度が十分に機能しておらず、生活が立ちゆかなくなる者も少なくない。北京や上海でも、地方出身の大卒者が自宅を購入するなどということは、日本よりはるかにハードルが高くなってしまっている。

 だが、ここに来て起きているのは、そうした社会の閉塞感や、社会主義体制に由来する社会問題だけではない。これまで党や政府が、地方の金融機関とともに土地転がしや資金運営をおこなうことによって資金を調達してきた「場」そのものが危機に瀕しているのだ。

 政府は、今回の全人代で、一面では地方政府に税源を与えて財政の立て直しを促すとしたが、同時に金融機関の破綻が一定程度生じることを想定したうえで、それらの全てを救うわけではない、とも明言した。地方で取り付け騒ぎが起きるであろうことは十分に想定されるし、また地方政府に財源を与えて財政の立て直しがなされるのは、その地方政府の官僚が中央政府と同じモチベーションを共有している場合に限られる。つまり、地方に財源を与えれば、不動産バブルを煽り、最後の一儲けを期待して、マクロ的にはより事態が混乱することがありうるからである。

 だが、こうした財政の立て直しがたとえ順調にいっても、中国経済は対症療法的な問題解決ではその成長を維持できないという見方も多い。

 第一に、労働力人口が次第に減少局面に入ろうとしており、このままでは高成長率を保てないという点である。中国政府は、「一人っ子政策」と呼ばれる人口抑制政策を緩和して、こうした労働人口の減少に歯止めをかけようとしているが、結果は不透明である。

 第二に、中国政府は経済成長のために不可欠である経済構造改革を進めようとしているが、社会主義体制下では、基本的にインフラやエネルギーなどの基幹産業が国家や党と関係のある特権企業に押さえられているために、それが決して容易ではない、ということである。

 李克強総理は全人代で、七・五%の成長を目標として掲げたが、それもまた下方修正含みであるとの観測が強い。中国はもはや、経済発展を国是として国民の意識をそこに集中させ、その経済発展を共産党が主導することによって正当性を担保するということが難しくなっている。それどころか経済政策を失敗してしまえば、統治の正当性を失う可能性があるのである。そのため、経済発展とは違う、新たな求心力が必要になるとともに、経済政策の失敗や経済発展により生じる問題が大きくなることを防止しなければならないのである。

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