中国の野心と海洋戦略

深層NEWSの核心

 東シナ海や南シナ海への中国の進出が加速している。そこにはどんな意図が込められているのか。尖閣諸島をめぐって緊張関係にある日本はどう対処すべきなのか。キャスター二人が、これまでのゲストの発言を踏まえて語り合った。

◆対外強硬策で矛盾を糊塗

「習近平国家主席の政治基盤はまだまだ薄弱だ。対外的に弱腰を見せるのは政権運営でもマイナスで、軍寄りの政策を考えるだろう」=丹羽宇一郎・前中国大使(昨年十二月十六日)
「(習近平政権は)国内のナショナリズムの突き上げに苦慮しているのだろう」=小川和久・静岡県立大学特任教授(昨年十二月四日)

玉井 中国政府は昨年十一月、東シナ海に防空識別圏を設定したばかりか、五月にはベトナムの反対を押し切って南シナ海で石油掘削を始めました。かつての胡錦濤体制に比べると、中国が対外強硬路線に踏み込んできたのは明らかです。習近平国家主席は、政権のスローガンとして「中華民族の偉大な復興」を唱えていますが、海洋進出には、国民の「大国意識」に訴えることで政権の求心力を保とうという狙いがあるのではないでしょうか。

近藤 確かに中国国内には、共産党支配の安定を脅かしかねない問題が幾つかあります。例えば、中国の経済成長率は、これまでずっと八%以上をキープしてきましたが、最近は七%台に落ちている。経済成長の果実を分配することで、格差など国民の不満を抑えてきたが、これからはわからない。

玉井 成長が鈍化しているのは確かですね。

近藤 一人っ子政策を取ってきたこともあって、今後は内需が縮小していくと見られています。一方では、人件費がかなり上がっており、「世界の工場」としての強みも薄れた。加えていえば、ウイグルやチベットなどの民族問題といったリスクもあります。黙っていても外国資本が入ってくるような状況ではなくなってきた。中国経済の将来は安泰ではないし、本格的に先進国の仲間入りをする前に、限界を迎える可能性さえあるのです。
「(中国では)都市と農村だけでなく、地域間でも格差が拡大している」=日本貿易振興機構アジア経済研究所の大西康雄・上席主任調査研究員(五月十六日)

玉井 経済成長の前途に不安が見える一方で、国内の格差が一段と拡大しているという指摘もあります。国民の潜在的な不満は高まっている。

近藤 最近では、大卒なのに良い職に就けない「蟻族」や、地方から都市部に出てきたものの、お金がないので小さな地下室に住んでいる「鼠族」といった人たちも増えている。地方政府の腐敗も相変わらずで、金持ちはますます金持ちになり、貧しい人はずっとそこから抜け出せない状況が広がっています。その実態は「社会主義的格差社会」といえるのではないでしょうか。事態は深刻です。

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