中国の現状変更への試みは容認しない――台湾海峡の安定を注視 岸信夫・防衛大臣

岸信夫(防衛大臣)

サイバー戦にはオールジャパンで対応する

─新たに対策が必要とされるサイバー領域ですが、自衛隊指揮通信システム隊を今年度末までに「サイバー防衛隊」として再編する予定です。

 昨今、自らに有利な国際秩序や地域の秩序の形成を目指した国家間競争が顕在化するようになりました。


 こうした状況下では、秘密裏の侵略を目的に非軍事的な手段が用いられることがあります。例えば、破壊工作や情報操作といった、外形上は武力行使とは認定しがたい手段を組み合わせた「ハイブリッド戦」です。ハイブリッド戦は軍事、非軍事の境界線を意図的に曖昧にしてくるので、軍事面にとどまらない複雑な対応が強いられる。これには、防衛省・自衛隊のみならず、オールジャパンでしっかりと対応していく必要があると考えています。例えばサイバー空間における脅威に対しては、内閣官房を中心とした関係省庁が一体となって、取り得る全ての有効な手段と能力を活用して、断固たる対応を取ることが必要です。また重要インフラの事業者、先端技術・防衛関係技術産業、あるいは研究機関といった民間部門との協力による総合的な防衛体制を通じて、このような複雑な状況にしっかり対応していくことが必要です。人的にも予算的にも、必要なものは手当てをしていかなければなりません。

─サイバーという新しくも重要な領域において、防衛省・自衛隊での人材の養成、または人材確保は簡単ではなさそうです。

 サイバー技術の蓄積は、民間側に多くあるのだと思います。そういう人材を発掘し、登用していくと同時に、関係省庁との連携、オールジャパンでの対応が必要になってくると思います。

─サイバー戦において、自国のネットワークを守るためには、相手側のネットワークに入っていくサイバー・インテリジェンスの必要性を説く論者もいます。

 様々な状況に対応していかないと、優位性の確保はできません。ただ、サイバーの分野においても、基本的には専守防衛の考え方でやっていかなければいけないと思います。

─情報操作の脅威も大きく、2016年のアメリカ大統領選では、ロシア側がソーシャルメディアなどを使って干渉した可能性が指摘されています。自衛隊としては、そういった情報操作にも日頃から目を配っていくのでしょうか。

 自衛隊としても、いろいろな情報操作の可能性を念頭に置いて対応していかなければならないと思います。軍事的な分野、また非軍事的な分野があるので、自衛隊でできるものとそうでないものを区分して、自衛隊にできないものは、支援をしていく。それによって総合力を発揮したいと思います。

─中国は宇宙でも覇権拡大の意欲が見られます。安全保障における宇宙の重要性について、また自衛隊としての対応を教えてください。

 情報収集や通信、測位等で人工衛星の活用が領域横断作戦の実現に不可欠です。そのため各国が宇宙領域における能力を強化させています。併せて、例えば中国が対衛星攻撃ミサイルの開発・実験を継続させているとの指摘もあり、宇宙空間の安定的利用に対する脅威が大きくなっていることも感じています。


 このような状況を踏まえて、防衛省も宇宙領域を活用した情報収集、通信、測位等の各種能力を一層向上させていくことに加えて、宇宙状況監視システム(SSAシステム)やSSAの衛星によって、宇宙空間の状況を地上や宇宙空間から常時継続的に監視する体制を構築する。そして、宇宙空間の安定的な利用を確保するための取り組みを進めているところです。


 宇宙領域に係る能力強化に際しては、宇宙大国である米国との協力が不可欠になってきます。今年3月の日米安全保障協議委員会(「2+2」)でも、宇宙を含む領域横断的な協力を深化させていくことを確認しました。防衛省として引き続き宇宙領域における能力強化にも努めたいと考えています。

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岸信夫(防衛大臣)
〔きしのぶお〕
1959年東京都生まれ。81年慶應義塾大学卒業後、住友商事に入社し21年間勤務。2004年の参議院議員選挙で山口県選挙区から出馬し初当選。参議院議員を2期務める。12年の衆議院議員選挙で山口2区から出馬し当選、現在3期目。外務副大臣、衆議院外務委員長、衆議院安全保障委員長など歴任。20年9月より防衛大臣を務める。
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