阿南友亮 米中、日中、中台の経済相互依存が台湾海峡の軍事的緊張を高めている

阿南友亮(東北大学教授)

緊張高まる台湾海峡

 台湾海峡情勢は、1995~96年に発生したいわゆる「第3次台湾海峡危機」以降、20年以上にわたって概ね小康状態を保ってきたと評価し得る。

 第3次台湾海峡危機では、台湾における初の民主的総統選挙に影響を与えることを目的として解放軍が台湾近海で軍事演習をおこない、それに対してアメリカが2個空母打撃群を台湾近海へ派遣し、台湾周辺海域が一触即発の緊張感に包まれた。その後、中国共産党が対外協調へと外交の舵をきったことにより、米中関係および両岸関係(中台関係)は改善され、台湾をめぐる軍事的緊張も緩和された。

 ところが、2019年あたりから解放軍の各種軍用機による台湾の防空識別圏内への飛行が急増し始め、20年には延べ約380機、21年には延べ約950機に上った。これに伴い、台湾空軍の戦闘機によるスクランブル(緊急発進)の回数も激増しており、台湾海峡上空で解放軍の軍用機との至近距離でのにらみ合いが常態化している。

 このような台湾をめぐる軍事的緊張の再燃をもたらした直接的な原因は、習近平政権の外交スタンスに見出すことができるが、中国と日米台との関係がそもそも深刻な構造的矛盾を抱えていることを見落としてはならない。

 解放軍の主たる任務は、中国共産党の一党独裁体制を守りつつ、いまだに達成されていない「祖国統一」を実現することである。「祖国統一」の最大の課題は、台湾との分断状態に終止符を打つことであり、解放軍は、台湾平定に主眼を置いた海軍戦略を1980年代半ばに採用し、その海軍戦略に沿った海軍力・空軍力の整備を粛々と進めてきた。

 特に、前述した第3次台湾海峡危機以降、海軍と空軍の大々的な戦力拡充が急ピッチで進められるようになった。その結果、解放軍の海軍・空軍は、この25年あまりの間に大幅に増強された。したがって、台湾海峡の緊張が再び高まるのは、時間の問題あるいは必然の成り行きと捉えることが可能だ。

 中国共産党政権が1990年代に入ってから本格化させた軍備拡張路線は、90年代以降の中国の経済成長によって支えられてきた。そして、その経済成長が日米台などからの投資、借款、技術支援を重要な原動力としてきたことに鑑みれば、解放軍の増強は日米台の対中ビジネスの副産物といえる。

 米中、日中、中台の間には、経済的相互依存の深まりと並行して軍事的緊張が高まる、あるいは経済的相互依存が軍事的緊張を高めるという構造的矛盾を見出せる。経済的相互依存が緊張緩和や衝突回避に寄与するという意見もあるが、現在の中国と日、米、台、豪、印、越、比、加などとの関係をみれば、経済的相互依存が関係の安定化につながっていないことは一目瞭然だ。

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