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トヨタを不信地獄に堕としたトップの器量

初動から間違っている
佐藤正明(ノンフィクション作家)

初動から間違っている

 トヨタは対応が後手に回り、昨年十一月に、四二〇万台という米国史上六番目の大規模なリコールを届け出た。「お客様第一、現場現物主義」を掲げる豊田章男社長が取るべき行動は、事故発生現場の米国に飛ぶことだった。

 そして次のような手続きを踏めば、問題はここまで大きくならずに済んだはずである。最初にリコールしたクルマを生産している工場を自分の足で視察し、欠陥と指摘されたクルマのハンドルを自分の手で握って運転し、その上でディーラーからトヨタ車に不安を持っているユーザーの声を自分の耳で吸い上げる。

 事実関係を掌握した上でオバマ大統領に直接会って陳謝する。さらに原因が解明されていない段階でもラフード運輸長官に解決に向け万全に対策を施すことを表明する。それを踏まえた上で記者会見に臨み、メディアを通じてユーザーに安心感を与える。「お客様第一、現場現物主義」を唱えるなら、それ以前にこうした危機管理を徹底させなければならない。

 米国に行くチャンスはその後も何度かあった。最後が、一月二十一日に「カローラ」「カムリ」などトヨタの主力車種二三〇万台をリコールした直後であった。

 トヨタは二回目のリコールを届け出てから一週間もたたない一月二十六日にリコール対象車種の販売を一時中止するとともに、北米にある五つの工場の生産を一時停止すると発表した。トヨタとしては安全と見て取った措置だが、結果はユーザーに「トヨタは欠陥製品を出しながら、それを否定し続けている。欠陥隠しではないか」という印象を与えてしまった。

 自動車業界は生き馬の目を抜く世界である。事実、GMやフォードはトヨタ車から乗り換えた場合、顧客に一〇〇〇ドル(約九万円)を支給するなどのキャンペーンを始めた。

 大量のリコール問題が広がるに伴って、章男社長がダボスに滞在している二十九日、米下院の監督・政府改革委員会は米政府の対応を検証するため二月四日(大雪で二十四日に延期)に公聴会を開くことを決定。前後して下院エネルギー・商業委員会も二月二十三日に公聴会の開催を決めた。

 格付け会社のフィッチが、二十八日に、現在、「Aプラス」にしているトヨタの長期信用格付けの見通しを「安定的」から、格下げの可能性が高まったことを示す「ネガティブ」に見直すと発表したことから、トヨタ株の下落に拍車がかかった。米国のマスコミ報道は、日に日にエスカレートしていった。

 元新聞記者にすぎない私ができることといえば、自分のブログで「豊田章男さん、行き先が違うよ」と書くぐらいしかなかった。ブログを見た友人、知人から「トヨタの社長の経営センスは悪すぎる」「社内では社長のダボス行きを止める人は誰もいなかったのですか」「これでは(飛んで火に入る)夏の虫ですよ」という電話やメールが相次いだ。

(全文は本誌でお読み下さい。)

〔『中央公論』2010年4月号より〕