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野党・自民党は民主党に学べ

時評2011
牧原 出(政治学者)

 二〇〇三年の民主党マニフェストは、国政選挙で初めて登場したマニフェストだが、その中で、当時の菅直人代表は「自民党も、全員が合意したマニフェストをきちんと掲げて、正々堂々『マニフェスト選挙』を戦って欲しいと思います」と呼びかけた。そして、二〇一〇年の参議院選挙では、野党に転落した自民党は当初から「マニフェスト」と銘打った公約を作成した。首相としての実績に乏しい現段階では、政治家菅直人の最大の功績は、自民党に「マニフェスト」を採用させたことであろう。

 つづいて昨年十二月に閉会した臨時国会では、迷走を続ける民主党政権と、攻守所を変えてこれを糾弾する野党自民党との国会論戦に注目が集まった。結果的に論戦が低調だったためであろうが、審議内容よりは、閣僚の失言が大きく報道された。ただし、そこで注目すべきは、仙谷由人官房長官の自民党の質問者に対する「拙劣な質問だ」という答弁である。意図的に自民党が野党としていまだ初心者であり、民主党の実績に学ぶべきことを印象づけたからである。

 政権交代が根付いているイギリスでは、サッチャー政権の経済政策策定の中心人物であった保守党政治家がこう語ったという。「もし、資本主義と市場が人々の生活水準を改善する最良の手段だと説く労働党党首が現れたとすれば、それは保守党の最大の功績となるだろう」(『ニュー・ステイツマン』二〇一〇年十一月十五日号)。市場経済を受けいれたブレア内閣の成立は、この予言が実現したことを意味している。つまりは、政権交代を通じて、二大政党は互いを学習するのである。

 それでは、野党自民党は、何を学習すればよいのであろうか。ジャーナリストでジョージ・W・ブッシュ政権のアドヴァイザーであったデイヴィッド・フラムは、大敗北で野党に転落した政党は四つの局面を経て復活すると述べている(『スペクテイター』二〇〇九年十一月十一日号)。第一には、敗北を認められず、有権者は本心では支持してくれているはずだと感じている局面。第二には、敗北を認めた上で、他党に投票した有権者は間違った判断をしたと考える局面。第三には、有権者は正しい判断をしたが、これまでの党の精神を変えるわけにはいかないとして伝統に固執する局面。第四には、新しい党へと再建し始める局面、である。イギリスの保守党はすでに第四局面に達しているが、アメリカの共和党はいまだ第一局面だ、とフラムは共和党を叱咤した。日本の自民党は、昨夏の参院選のマニフェストを見る限り、第三局面にたどりつきつつあるが、国会論戦では第一局面どまりのように見える。

 確かにマニフェストには数多くの項目で独自の政策案があげられている。もちろん党内で十分なコンセンサスが得られているかは定かでないし、教育政策での日教組批判や、一方でNPOに冷淡、他方で町内会を重視する地域コミュニティ政策など、一時代前の復古的な政策も目につく。これらが、党の政策を右へ右へと引き寄せ、多くの有権者を離反させないとも限らない。だが、かつての民主党のように、今後選挙が近づくにつれて、こうした政策案から実現可能なマニフェストを作成する動きが生じることを、期待してもよいように思える。

 とはいえ、そこから先には険しい道が待ち受けている。二〇一〇年、イギリスでは、保守党は統治能力に疑問符を付けられて、選挙で過半数議席を得ることができず、自由民主党と連立政権を組まざるをえなくなった。アメリカでは十一月の中間選挙で共和党は圧勝したが、オバマ政権の経済政策に効果が出ていない状況や、共和党にさえ距離を置く草の根保守運動「茶会」の活動が活発であることなどから、「今は見習い期間中」と党関係者から評されている。

「見習い期間中」なのは、日本の自民党も同様である。経済・外交・社会保障で困難を極めるであろう今後、準備なく政権につけば、鳩山・菅政権のように惨めな結果を招くからである。それでも、野党時代の民主党は、マニフェストを発案したり、立法能力を磨くために対案提出に努めたり、与党との交渉に重きをおいたり、と色々な戦略をとっていた。自民党も、野党として可能なことは一通り試してみるべきであろう。その先に有権者から支持される政治姿勢と政策とは何かが見えてくるはずである。成熟した有権者は、自民党が本格政権の担い手となりうる日がいつ来るのか、じっくりと眺めているのである。
(了)

〔『中央公論』2011年2月号より〕