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生き残れるのは「検証」に耐えうる政権だけだ

時評2011
牧原 出(政治学者)

 東日本大震災の発生から三ヵ月が経過したところ、政界では菅直人内閣への不信任案の対応をめぐり、民主党の代議士会で菅首相が辞意を表明した。鳩山由紀夫、菅首相と続けて民主党は政権交代に失敗したとまずは評価されそうである。だが、そもそも新政権が最初の二年の内に落ち着くのは容易ではない。最近の長期政権であった小泉純一郎内閣でさえ、二〇〇一年に成立した政権が本格化するのは、産業再生機構の発足など不良債権処理の枠組みが確立した二〇〇三年以降ともいえる。その点で民主党政権は次の衆議院選挙までが正念場である。

 対する自民党では、党改革委員会の中間報告に対して、「派閥政治との決別」などの改革案が長老議員と石原伸晃幹事長から修正されたと報道されている。報告書自体は、ホームページでは公開されていないようであり、自民党の密室政治の体質がいまだ十分に克服されていないように見える。自民党は、公約の整理のみならず党の態勢でも、次の総選挙への戦略を固めきれていないというべきであろう。次の総選挙までの期間は、自民党にとっても再出発へのタイムリミットである。

 しかも、少子高齢化への対処、財政破綻の回避、TPPなど通商政策の確立、日米関係・対アジア関係の再構築など、日本が直面する政治課題は山積している。こうしてみると、ポスト菅内閣は、二〇〇九年の政権交代以降の政治の転換を決定づけ、また震災復興への対応を進める点でも、今後の日本を方向づけるものとなるであろう。

 その出発点となるのは、民主党政権にとり、二〇〇九年のマニフェストが賞味期限を迎えたことである。すでにこれは昨年の参議院選挙の敗北で「見直し」を余儀なくされていたが、三月の大震災以後は、復興のため与野党協力が不可欠になり、政党間の交渉によって政治課題が決まる段階に入った。また、衆議院議員の任期満了を迎える二〇一三年は参議院選挙の年でもある。今後ダブル選挙による政権の一新が現実味を帯びるならば、与野党間交渉の中で各党から打ち出される政策は、次の選挙のマニフェストを先取りするものとなるかもしれない。

 もっとも、震災への対応には、復興基本法が民主・自民・公明などの賛成で可決されたように、超党派的な決定が必要であり、政党間の差は出にくい。だが、震災後四ヵ月近く経過し、被災者の状況はそれぞれ個別化し、多様化している。復興の施策には、必ず強烈な批判がつきまとうであろうが、それには政治から語りかけるメッセージと、近隣団体やNPOなど社会の側からの自発的な支援とによって、解決の糸口が開かれるであろう。本格政権が現れるとすれば、両者を結びつける政策パッケージを示した党によってではないだろうか。

 ただし、それには条件がある。今後の政治を大きく規定するのは「検証」だからである。福島第一原発事故の事後検証について、IAEA閣僚会議に提出された政府の報告書が国内でも公開され、またIAEA調査団の報告書についても報道されている。これらから、諸外国・国際機関からの支援の様相や、政府の情報公開の達成度と限界、何が今後の教訓となるか、当面の結論が確認できる。

 また原発事故調査・検証委員会も震災後三ヵ月を節目に設置されて活動を開始した。これは政府の対応の不備を明らかにするであろうが、逆にかつての自民党政権の原発政策の不備をも指し示すであろう。

 こうした「検証」の特徴は、一度報告書を発表すれば、今後も引き続き検証結果の公表が求められることである。議事録や報告書の内容は徹底して吟味され、原子力規制機関の再編から電力供給体制の再編など、新しい政策課題を生み出していく。「検証」は幾重にも重ねられるのである。

 原発問題についての絶えざる「検証」は、多様かつ複雑な解決を迫られる復興過程全般にも及ぶであろう。震災後の菅首相は、浜岡原発停止など唐突に新しい政策を打ち上げる手法に頼りきっていた。メディアの調査取材が次々に報道する事故の「検証」に対して、事態を適切に説明し、将来を説得的に語ることができなかった。これでは国民の信頼は得られない。退陣発言に追い込まれた一因はここにもある。これからは繰り返される「検証」に耐えうる政権のみが生き残ることができる。一層の「検証」のもとで、どのような政治のメッセージが発せられるか。国民が注視していることに、いつ政治家は気づくのであろうか。

(了)

〔『中央公論』2011年8月号より〕