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与党としての統治能力を磨く最後のチャンス

牧原 出(政治学者)

 民主党政権への見方はマスメディアでは厳しい。特に日々の政権の試行錯誤と迷走が記者の気に障るらしい。そこからは政権発足後の二年間が次のように描かれる。鳩山由紀夫首相は、普天間問題に見られる無定見な発言を繰り返し、自滅した。後継首相であった菅直人は、最初は増税路線を唐突に掲げて参議院選挙で大敗し、震災後は脱原発を振り回したが、参議院で法案成立の鍵を握る自民・公明から特例公債法案成立の条件として辞任要求を受け、また党内の造反により国会での不信任案可決を目前にして退陣表明を行い、求心力を喪失して辞職を余儀なくされた。結局民主党政権はなすすべもなく混乱していただけである。

 これは一つの見方であるが、対極の見方も考えられる。それは、参議院で少数与党状態を克服して予算と関連法案の国会通過を成し遂げ、自民党政権からの脱却をどう果たしたかという視点である。その軸は予算編成にある。鳩山首相は、国民新党と社民党との連立を維持して、政権発足後最初の予算を編成し関連法案の国会通過を図るために両党の意向を大いに尊重し、普天間の県外移転を打ち上げ、予算の国会通過後に辞任した。続く菅首相は、参議院選挙で鳩山内閣の混乱に嫌気がさした国民の審判を受けて大敗したが、二〇一一年度予算の年度内成立を円滑に成し遂げ、特例公債法案をはじめとする主要な予算関連法案の国会通過のために、ありとあらゆる奇策を用い、最終的に辞任前に法案の国会通過を果たした。

 前者は、小泉純一郎内閣以前の自民党政権の整然とした政権運営を尺度にしているが、今や自民党すらそれを失っている。そして後者はあまりにも民主党に好意的すぎる。事実はこの中間であろう。当初の民主党政権のいう「政治主導」――すなわち政治家が官僚を排除して意思決定をするという仕組み――は、完全に失敗した。その間の混乱は目を覆わんばかりである。むしろ官僚がある程度のイニシアチブを発揮し、政治家はこれを吸収しながら当初のマニフェストを変形させた政策を遂行しつつある。震災復興の施策においては、復興構想会議と官僚集団が協力することで、当面の政策の立案を果たしつつある。

 そこでの当面の問題は、ポスト菅政権の姿である。野田佳彦新首相が誕生したが、第一には、おそらく首相のリーダーシップよりは、複数党幹部による集団指導の体制がとられるであろう。第二に、参議院の少数与党を克服するために、自民・公明との間で何らかの協力関係を構築する必要がある。大連立は両党にとっては大きな賭けとなるであろうから、部分連合の形が模索されるであろう。第三に、政権の節目はやはり予算編成である。来年度予算編成が頓挫して解散に突入するか、それとも来年度予算案の審議が円滑に進み、二〇一三年度の予算案の審議中か成立後に衆議院が解散されるか。二つの節目がある。

 他方で、自民党は、野党として可能な限り政策決定に影響を与えつつ、政府と対決して解散に追い込む機会をうかがうであろう。これについて、新聞は、自民党の「政権奪還」と報ずることが多い。だが、「奪還」は簡単ではない。何しろ、自民党政権は、少なくとも安倍晋三内閣以後、政権運営で相当の混乱を続けていた。解散・総選挙の気運が高まれば、国民は、必ずこの混乱をどう克服したのか、自民党に問うであろう。しかも、原発問題に典型なように、過去の自民党時代の政策の責任は、今なお様々な形で噴出している。そして自民党は、民主党と異なり、これまで野党の立場から政権をうかがうために、実現可能な公約をまとめた実績がほとんどない。いかなる公約のもとで、どう新しい自民党政権の将来を打ち出すのか。野党自民党が、新しい時代の本格的与党に生まれ変わるためのステップである。

 ポスト菅政権以降は、民主党にとっては政権を可能な限り継続させるため、過去のマニフェストを一層変化させて、民主党型の政治を定着させるチャンスである。自民党にとっては、与党としての統治能力を国民に示すための最後の準備期間である。もちろん、両党とも大いに混乱し、政治不信を助長する可能性はある。だが、両者が政党間競争に入るならば、ようやく「政権交代」は二〇〇九年の民主党の独占物ではなくなる。「政権交代」とは、民主党にとってはこれを持続させることであり、自民党にとっては民主党政権を打倒することだからである。日本政治は、二〇〇九年の「政権交代」をさらにヴァージョンアップさせ、進化させることができるだろうか。

(了)

〔『中央公論』2011年10月号より〕